日経ナショナル ジオグラフィック社

そのマイクロプラスチックが人体に及ぼす影響を測るのは、簡単なことではない。プラスチックは、強度や柔軟性を出すための添加剤など、様々な化学薬品を複雑に組み合わせて作られている。そしてプラスチック自体も添加剤も、人体に害を及ぼすことがある。

2021年6月に学術誌「Environmental Science & Technology」に掲載された分析によると、プラスチックに使われている化学物質は1万種類を超え、そのうち2400種類以上で人体への影響が懸念されている。しかも、多くの国で十分な規制がされていない物質も多いと、論文は指摘する。そのうち901種に関しては、法令で食品包装への使用を禁じている地域もある。

ドイツにあるラインマイン応用科学大学環境プロセスシステム工学研究所で、プラスチック粒子の3D顕微鏡画像を確認する研究助手のフェリックス・ヴェバー氏(PHOTOGRAPH BY ARNE DEDERT, PICTURE ALLIANCE/GETTY IMAGES)

添加剤は、水中でプラスチックから溶け出すこともある。ある研究によると、日光にさらされたり時間が経過したりすることによって、最高88%が浸出する可能性があるという。さらに同じ研究で、ひとつのプラスチック製品の製造に関連して、最高で8681種もの化学物質と添加剤が使用されていることも判明した。このように極めて複雑な混合物のなかで、具体的にどの組み合わせが問題なのか、どれだけの時間、どれだけの量にさらされれば害となるのかを突き止めるのは並大抵のことではない。

ウズラの実験

プラスチックごみが様々な動物の体内に侵入していることは、これまでの研究で明らかになっている。こうした研究は、人間に対する影響を知るうえで参考になる。

例えば、プラスチックの有毒物質は鳥類の健康に悪影響を及ぼす恐れがあるとされているが、ウズラのヒナを使った2019年の実験では、そうとは言えない結果が示された。2019年5月に「Science of The Total Environment」に発表された論文によると、プラスチックを与えられたウズラのヒナは、成長にわずかな遅れが見られたものの、他のヒナと比べて特に病気になったり、死んだり、生殖に問題が生じたということはなかった。

写真は、マイクロプラスチックを与えられたウズラが、他のウズラと比較して特に健康被害が見られなかったことを示している。ただし、成長にわずかな遅れが見られた(PHOTOGRAPH COURTESY LAUREN ROMAN)

この結果は研究者たちを驚かせ、少量のプラスチックを体内に持つ鳥の健康被害が、それまで懸念されていたほど深刻なわけではないことを示す「初めての実験的証拠」であるとされた。

この研究はマイクロプラスチックの健康被害を評価するのがそう簡単ではないことを示していると、論文の共著者でオーストラリア連邦科学産業研究機構のリサーチサイエンティストのデニス・ハーデスティ氏は話す。

人への影響は

人にわざとマイクロプラスチックを摂取させてその影響を調べることはできない。しかし研究室の実験では、人間の細胞がプラスチックにアレルギー反応を起こしたり、死滅したりすることがわかっている。

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過度に恐れるのではなく警戒を