前出のフェターク氏らによるオランダの研究では、22人の健康な献血者のうち17人の血液からプラスチックが見つかり、英国の研究では、肺手術を受けた11人の患者から採取された13の肺のサンプルのうち、11のサンプルからマイクロプラスチックが見つかった。どの程度のマイクロプラスチックにどのくらいの期間さらされていたかが、健康被害を測る重要な要因となるが、その情報は今回どちらの研究からも得られていない。
2つの研究で検出されたのは、主に1ミクロンよりも小さなナノプラスチックと呼ばれる粒子だ。血液に含まれていたものは食物と一緒に摂取された可能性があるが、普通に呼吸をしていて吸い込んでもおかしくないほど小さかったと、フェターク氏は言う。超微細なプラスチックが、血管を伝って臓器や脳にまで入り込むことができるかどうかは不明だ。
一方、英国ハル大学の研究チームが行った肺の研究は、浮遊プラスチックがいかに体の奥深くまで侵入しているかを示している。手術中に患者の肺の中でプラスチック繊維が見つかるだろうことはある程度予測していたものの(過去の研究では、死体からプラスチック繊維が見つかった)、肺のなかでも一番奥にある下葉の部分に最も多く、しかも様々な形や大きさのマイクロプラスチックが入り込んでいたことに、研究者らは衝撃を受けた。なかには、長さが2ミリの繊維もあった。
過度に恐れるのではなく警戒を
プラスチックに含まれている有害物質に関する研究は広範囲に及び、ぜん息や慢性閉塞性肺疾患(COPD)、がんとの関連性も研究されている。これらの肺疾患は既に他の汚染物質との関連が示されており、米国で年間数百万人の死者を出している。
産業革命以降、人間は毎日、様々な物質を吸い込んでいる。異物が侵入したときに、体はまずそれらを排除しようと反応する。大きな物質の場合は、通常はせきで排出する。気道の奥まで入り込んだ微粒子は粘膜で包み込み、エレベーターのようにして上気道まで運び、外へ排出する。残りの異物は、免疫細胞に取り囲まれて隔離される。
長期的に、こうした微粒子に刺激され続けると、体は炎症、感染症、がんなど様々な症状を示し始める。しかし一方で、体内に残存したまま何の症状も引き起こさないという可能性もある。
肺の研究で見つかった粒子は、肺炎症、めまい、頭痛、ぜん息、がんを引き起こすことが知られているプラスチックで作られていた。医師で米スタンフォード大学アレルギー・ぜん息研究センター長のキャリー・ナドゥ氏は、研究で検出されたプラスチック繊維のリストを見ながら、症状を列挙した。
「これは、他の論文で既にわかっていることです。ポリウレタンを吸い込んでからわずか1分で異常な呼吸音を起こす人もいます」
ただわからないのは、どれだけの量と期間さらされれば健康への影響が出てくるかということだ。
「やたらと恐れるべきだというのではなく、警戒はしたほうがいいということです。私たちの体内に入って、もしかすると何年もとどまっているかもしれないものについては、理解する必要があります」
(文 LAURA PARKER、訳 ルーバー荒井ハンナ、日経ナショナル ジオグラフィック)
[ナショナル ジオグラフィック 日本版サイト 2022年4月28日付]