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希少な国産小麦のパスタ 星付きイタリア料理店も提供

イタリア美味の裏側(20)イタリア食文化文筆・翻訳家 中村浩子

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NIKKEI STYLE

今年は小麦の価格が注目されている。もともと小麦は国内自給率が十数%しかなく、日本は輸入に頼っている。カナダ・米国の不作やウクライナ情勢により、小麦の価格が世界的に高騰。日本では輸入小麦を製粉業者に売り渡す政府売り渡し価格がいったん値上がりしたが、あと半年間は据え置かれることが決められた。いずれにしても、今後、輸入小麦の値上がりに備えて、日本が国産小麦の生産量を増やしていく流れは加速するだろう。

そのようななか、小規模な農家が育て、イタリア料理人たちにパスタやパンとして喜んで使用される国産小麦がある。今回はその小麦とパスタを紹介しよう。

まずは、広島県東広島市志和町の「むささび農園」が2007年創業当時から栽培している小麦「ミナミノカオリ」。西日本では一般的なパン用小麦の品種である。多いときで300キログラム 、今年は150キログラムの小麦の収穫があった。

「自家用田んぼで無農薬で小麦を育てていますが、小麦は湿気に弱いので、水はけが悪いところは溝を切って水を流す必要があります。また、小麦は"肥料食い"なので、収量を上げるために肥料がかかせません。山間部にある畑のため、シカやイノシシに新芽を食べられてしまうのが悩みの種です」と夫の六地さんと農園を営む北原佳代さんは話す。

「むささび農園」が自家用に育てた小麦でつくるのが、乾麺の「黒うどん」だ。無農薬の小麦に限定して乾麺をつくる黒澤製麺所(栃木県市貝町)に、むささび農園は小麦を送って粉にしてもらう。ひいてもらった粉は、一部は自家用粉にして使い、一部は製麺して自家用以外を販売する。黒うどんという名前は、小麦の外皮であるふすまを多く含むため、麺が黒っぽいところから来ている。もともと自家用なので、収穫量にもよるが、製麺できるのは150袋ほど。地元のマルシェなどでしか売られることのない希少な乾麺である。

この「黒うどん」をパスタとして使うのが、イタリア料理店「RISTORANTE ALVERO(リストランテ・アルベロ)」(広島市)の木村忠敬オーナーシェフ。無農薬野菜を取り寄せている農家のたまたま隣にあったのが、むささび農園だった。木村シェフが作った一皿は、「アズキのパスタ」。アズキのかすかな甘さと黒うどんの香り高さがマッチしている。

香り高い「黒うどん」パスタは小麦のふすまを多く含む

顧客の健康のために食材選びや調理法にこだわる木村シェフは、ナチュラルミネラルウオーター「コントレックス」(硬度1500)と日本の軟水(硬度20~80)を1対3の割合にして、パスタのゆで湯の硬度を調整する。そこにイタリア産天日塩を湯量の1%入れて、沸騰する直前に火を止め、コンブを十数分浸(つ)けて引き上げる。この湯でゆでれば、パスタが弾力ある歯ごたえのアルデンテに仕上がり、冷めても伸びないのだという。シェフの研究と技量があるからこそ、黒うどんがパスタとして成立するのだろう。

一方、千葉県八街市には、自家採種イタリア小麦を栽培・製粉する「イマフン」がある。イタリア品種の小麦は特に水に弱いため、イマフンは赤カビ防除のため、有機JASの指定する殺菌剤をわずかに使っている。有機JAS認証はあえて取得していないが、その品質のよさから、「ミシュランガイド京都・大阪+和歌山 2022」に掲載されたイタリア料理店「villa AiDA(ヴィラ・アイーダ)」(和歌山県岩出市)や「cenci(チェンチ)」(京都市)、「ミシュランガイド東京2022」に掲載された「FARO(ファロ)」(東京・中央)だけでなく、三つ星フランス料理店「レフェルヴェソンス」(東京・港)や姉妹店ベイカリー「ブリコラージュ ブレッド&カンパニー」(東京・港)がこぞって同社の小麦粉を使う。

イマフンの今村太一代表は、若いころにイタリアとドイツへ渡り、紛争から逃れてきたコソボ難民とともに働いたことがある。「そのとき、小麦でできたパンは、生きるために絶対に必要なものだと体感したんです」。帰国後、今村さんは都内や横浜のシェフを経て、33歳で千葉県内のイタリア料理店のオーナーシェフとなった。

が、翌年には、リーマン・ショックが起きた。そのあおりを受けて、当時、野菜を仕入れていた「エコファームアサノ」(千葉県八街市)の畑や卸の仕事を昼間は手伝い、夜は店の営業という生活を始めることになった。オープンして7年後に店を閉店。飲食店向け野菜・ハーブ生産者として有名な「エコファームアサノ」の畑の一角で、今村さんは小麦の栽培を手探りで始めたのだった。

小麦はそれぞれの料理人が付加価値をつける食べ物

イタリア小麦の生産者となってから、イタリア料理人だった経験が生きた。なかでも、イタリアワインの神様のように称された故内藤和雄ソムリエと同じ店で働いていたとき、「前日の残りのこのワインに合うまかないを作ってみて」と命じられるなど、厳しく鍛えられた。それがいまでは今村さんの血肉となり、料理人が自分の小麦をどのように使いたいのか、どういうパスタを作りたいのかを明らかにし、それに合ったひき具合の小麦粉を提案することができる。

「小麦は、使い手(である料理人)が付加価値をつける食べ物です。だから、小麦粉はプレタポルテ(既製品)ではなく、使い手ごとに違うオーダーメード(注文品)でありたい」と今村さんは言う。

実際、イマフンの小麦粉をパスタとパンに使う「オステリア・デッロ・スクード」(東京・新宿)の小池教之オーナーシェフは、使用感をこう語る。「パスタ用としてお願いしているやや細びきの粉は、吸水や香りの出方がいろいろ変わるので、扱っていて楽しい粉です。パン用小麦なので、十分な吸水と生地を寝かせたあとの非常に高い粘弾性や伸展性のある質の良さは、むしろパスタには強すぎる場合もあります。やはり毎回、イマフンという粉と会話しながらきちんと向き合うことで、粉の発する言葉を聞き取ることができるのではないかと思います」

イマフンでは、収穫した小麦は水分量が13%になるまで乾燥させ、選別し、袋詰めして、米の定温倉庫で保管する。そして、注文のたびに、石臼でひく。石臼でひき始めたのは、21年秋からだ。イタリアでは小麦を石臼でひくと摩擦による熱の影響を受けにくく、風味がより保たれるとされる。玄麦を丸のまま石臼に投入するのが普通だが、今村さんは粒の大きさをできるだけ均一にするため、小麦の外皮を磨いてから粗く割って投入。粉への加熱を避けるため低速でひく。高校卒業後に初めて就いた仕事が車の整備士だったので、手先の器用さを要する石臼の調整はお手のものだ。

「大量生産の小麦粉は、製粉の歩留まりの悪さをなくすために毎年、できるだけ小麦が同質であることが求められます。ですが、自然の賜物(たまもの)である小麦は、毎年、でき具合が違う。その状態に合わせてひき、料理するのが人間の仕事です。石臼でひいたイマフンの小麦粉は吸水率など、1~2キログラム使っただけではつかめない粉で、使い手の技量が求められると思います」と今村さんは言い、そのあと言葉をつないだ。

「とは言え、自分の小麦粉のどこがよくて料理人が使ってくれるのか、自分ではよくわかっていません。リゾットによく使われるカルナローリ米は3年熟成がよいと言われますが、小麦は熟成したほうがよいのかどうかもまだわからず、実験中です」。日本人はなんの分野でも極めるまで精進し、自己鍛錬する「道(どう)」にしたがると言われるが、「小麦道」と呼べるものがあるとすれば、今村さんはひと筋にひたすらに歩み続けている。

中村 浩子
イタリア食文化文筆・翻訳家。東京外国語大学イタリア語学科卒。イタリアの新聞社『ラ・レプブリカ』極東支局長助手をへて、文筆・翻訳へ。国際薬膳師の資格を持ち、「薬膳イタリアン」を日本全国に広める。著書に『イタリア薬膳ごはん』(共著)、『「イタリア郷土料理」美味紀行』、訳書に『イタリア料理大全 厨房の学とよい食の術』(共訳)『スローフード・バイブル』。

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