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日本経済新聞社は10月12日に「日経リスキリングサミット〜共に成長する社会の創出〜」を開催した。産学が連携してリスキリングを推進する重要性を確認したサミット。その後半の内容を紹介する。

マネジメントこそリスキリング必要

「未来人材会議」の事務局を務めた経済産業省産業人材課長の島津裕紀氏と、IT(情報技術)企業から転職した人事院人事官の伊藤かつら氏が、働く人の成長と組織のあり方をテーマに対談した(コーディネーターは日本経済新聞社編集委員杉本貴司)。

経済産業省産業人材課長 島津裕紀氏

経済産業省産業人材課長 島津裕紀氏

冒頭、島津氏がリスキリングを取り巻く課題を列挙。個の自律・活性化の実現と、囲い込み型雇用から選び、選ばれる関係への転換に向けた方策の重要性を訴えた。個の自律・活性化に向けて、伊藤氏は「経営者や管理職も『個』。トップが学ぶ姿を見せれば、従業員も活性化する」と発言。島津氏も「マネジメントこそ、現場業務とは異なるスキルが求められる。コーチングや評価手法など学び直すことは多い」と、経営者や管理職のリスキリングの重要性を指摘した。

人事院人事官 伊藤かつら氏

伊藤氏は人事院での事例で、自律的な個によるボトムアップが有効に機能し、リスキリングを成功させたケースを紹介。政府機関が共通で利用する「ガバメントソリューションサービス」へのシステム刷新に際して、各部署から有志を集めて事前に習熟させ、移行後、各部署でトレーニングの中心になってもらうことで速やかな移行に成功したと説明した。

選び、選ばれる関係について、島津氏は「10年に1回はキャリアを再考する機会が必要」と提案。他にも目を向ける機会が健全に確保されてこそ従業員は信頼を感じると主張した。

最後に伊藤氏は「すべてに精通した人材はいない。学び続ける組織と個人が将来の日本をつくる」と話し、島津氏は「組織としてリスキリングを推進し、人的資本の価値を引き出してほしい」と締めくくった。

学び直しはスキル伝達でなく成長の機会

The Josh Bersin Company ジョッシュ・バーシンCEO

The Josh Bersin Company ジョッシュ・バーシンCEO

続く、特別講演はThe Josh Bersin Companyのジョッシュ・バーシン最高経営責任者(CEO)が登壇した。バーシン氏は、「従業員研修で高パフォーマンスを出す企業の多くは、研修をスキルの伝達ではなく、成長機会と位置づけている」と説明。何よりも従業員の意欲を高めるのは、成長の実感だと訴えた。一方で変化が早い時代にあって、研修コンテンツの寿命が急速に縮まってきた。この点で教育プラットフォーム「Udemy」はユニークであり、コンテンツをオープンに集めることで、スピード感を持ってニーズに対応することができると説明。「顧客企業は自社に特化したコンテンツ構築ができ、保有する社内研修コンテンツのオンライン化や、リーダーや各部門の知見を教え合うコンテンツを設けられるのも有益だ」と話した。

コーチや仲間とともに学ぶ環境が重要

パーソルグループの企業講演では、リスキリング促進とキャリア自律支援をテーマに、「人材」を研究テーマにするパーソル総合研究所シンクタンク本部上席主任研究員の小林祐児氏と、「DX人材」のリスキリングに携わるパーソルイノベーション「学びのコーチ」事業責任者の柿内秀賢氏が登壇し、パーソルキャリアはたらく未来図構想統括部の得能絵理子氏がモデレータを務めた。

パーソルグループの企業講演 左から得能絵理子氏、柿内秀賢氏、小林祐児氏

パーソル総合研究所が5月に実施した正社員3000人(20〜59歳)に聞いた調査結果から、小林氏は交流しながら学び合うソーシャルラーニングの有効性を紹介。「学ぶ人同士がつながりを持つことで、学びへの意欲を引き出せる」と話した。柿内氏も「専門のコーチと会話しながらの学びは、気付きと自信につながる」と対話の重要性に触れた。

リスキリング施策を打つとき、学びへの意欲に差が出ることも、企業にとっては悩ましい。得能氏から「学ばない人問題」について問われた柿内氏は「例えば3カ月コースでは1カ月もすると半数が脱落する。そこで脱落者に対して、学ぶ意欲を高めるように注意喚起を繰り返すことが重要だ。そうすれば最終的には99%が完遂する」と実践的なアドバイス。一方小林氏は「人の動機は内心というより、他者との関わりから生まれる」と解説。コーチや共に学ぶ人との人間関係がモチベーションを高める仕掛けになると2人の意見が一致した。

最後に小林氏は「一旦巻き込まれれば、強い関係を築けるのも日本人の国民性。最初に巻き込めるかは企業の努力だ」と実践企業にエールを送った。

「挑戦できる環境」「志の高さ」「人間力」が大事

地方創生との観点から積極的にリスキリングに取り組む自治体と金融機関、連携企業が集まってディスカッションした。パネリストは広島県副知事の玉井優子氏、ひろぎんホールディングス経営管理部人事総務グループ人材開発室室長の平山剛寛氏、グロービスグロービス・デジタル・プラットフォームマネジング・ディレクターの井上陽介氏で、コーディネーターは日本経済新聞社編集委員の杉本貴司が務めた。

左から広島県副知事の玉井優子氏、ひろぎんホールディングス経営管理部人事総務グループ人材開発室室長の平山剛寛氏、グロービスグロービス・デジタル・プラットフォームマネジング・ディレクターの井上陽介氏

冒頭、パネリストからリスキリングに対する取り組みの紹介があった。玉井氏は「『ノベーション立県』を掲げる広島県は、デジタルと地域資源を掛け合わせることで新たな価値創出を目指している。人材育成の機運向上のため県内の企業にリスキリング推進宣言を推奨し、宣言した企業にはITリテラシーの入り口ともいえるITパスポートの試験受験料を補助している」と、広島県の取り組みを説明した。

次に、平山氏がひろぎんHDの取り組みを紹介。「人の能力やスキルに応じた研修カリキュラムを実施し、自律性を尊重して希望者のみが受講している。以前は指名型研修がほとんどだったが、従業員が主体的に選択して受講できるカリキュラムに切り替えた」と話した。

井上氏は「経営大学院の運営などを行うグロービスは動画学習サービス『グロービス学び放題』を展開している。現在900コース、6000本超の動画を提供し、3000社を超える企業が導入、24万人以上の会員がいる」とグロービスの事業を紹介。同サービスのきっかけが約10年前の広島県とのビジネススクール実施だったと語り、「地方の学びたい人が距離と金銭の壁を乗り越えられるサービスを開発できた」と説明した。また能力開発に加え、「ネットワークを広げて、対話の中で志を高めていく姿勢が大切だ」と述べた。

また玉井氏は「イノベーションで大事なのは、トライ・アンド・エラーを繰り返せる環境づくり。ひろしまサンドボックスと銘打ち、実証実験の場や資金を提供している」と施策を紹介。平山氏は、グループ内で連携し県内の中小企業を支援した事例をもとに「社長の熱い思いと会社を支えるキーマンの覚悟が重要」と語った。またリスキリングというと、プログラミングなどの業務スキルに目が行きがちだが、それ以外の部分も大切ではないかとの指摘に対して、平山氏が「業務スキルや知識は常時変わる。土台になる人間力、前に踏み出す力や考え抜く力をしっかり鍛えていくことが必要」と応じた。

1人も取り残さないリスキリングのために

サミットの最後に行われたクロージング座談会は、岸田文雄首相、SOMPOホールディングスグルーCHRO執行役専務の原伸一氏、ベネッセコーポレーション執行役員大学社会人事業本部長の藤井雅徳氏、ジャパン・リスキリング・イニシアチブ代表理事の後藤宗明氏をパネリストに迎えて行われた。(コーディネーターは日本経済新聞社常務執行役員内山清行)

左から、日本経済新聞社常務執行役員 内山清行、岸田文雄首相、SOMPOホールディングスグルーCHRO執行役専務の原伸一氏、ベネッセコーポレーション執行役員大学社会人事業本部長の藤井雅徳氏、ジャパン・リスキリング・イニシアチブ代表理事の後藤宗明氏

冒頭、岸田文雄首相がリスキリングと労働移動の円滑化の重要性を改めて訴えた。それに対し、後藤氏は「リスキリングは就業時間内に企業が実施すべきもの。しかし企業の責任や個人の頑張りだけでは進まない」と主張、国の支援を求めた。また原氏は「社員が自らキャリアをつくっていく時代において、会社はそれを後押しするリスキリングの提供が不可欠」と話し、藤井氏は「中小企業でリスキリングは遅れている。自治体や地方の高等教育機関と協働を進めている」と語った。

岸田首相はリスキリング政策について問われると、「人への投資、労働移動の円滑化、所得の増加を一体的に進め、総合経済対策において3つの政策拡充を図り、5年間で1兆円に拡大する」と明らかにした。具体的には「非正規雇用を正規雇用に転換する企業や、転職・副業などを受け入れる企業に対する支援策の新設、拡充」「労働者が民間の専門家に相談しながらリスキリングから転職までを一気通貫で支援する制度の新設」「労働者の訓練などを支援する企業への支援金の補助率引き上げなど」――である。

こうした政府の対応を聞き、藤井氏は「リスキリング支援が本格的に動き出すと実感できた」と語り、原氏は「今後は労働者がスキルやキャリアを自ら築くというマインドセットが必要。企業はスキルに見合ったポジションや仕事の提示、提供が欠かせない」と主張した。一方後藤氏は、世界で給与をもらいながらリスキリングを進める「アプレンティスシップ制度」の導入が進んでいることを紹介。日本でも「ぜひ導入を検討してほしい」と訴えた。

最後に岸田首相は「新しい資本主義の実現には人への投資を重視し、リスキリングを支援していくことが欠かせないと改めて確信できた。デジタル化の進展や社会情勢の変化など、大きな転換期にあるいま、企業も企業文化も変わっていくことが必要だ。官民がそれぞれ努力を重ねることで、社会・経済全体が変わっていく。そのためにも思いを一つにして、大きな方向性を共有することが大事だ」と決意を語った。

特別協賛: ベネッセコーポレーション、Udemy

協賛: EY Japanパーソルホールディングスグロービス

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