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働き方改革や自律型人材の増強、デジタルトランスフォーメーション(DX)、グリーントランスフォーメーション(GX)の推進など、様々な課題に直面する企業がいま最も注目しているのがリスキリングだ。そこで日本経済新聞社は10月12日に「日経リスキリングサミット〜共に成長する社会の創出〜」を開催した。

岸田文雄首相をはじめ、国内外のオピニオンリーダ-や専門家などが参加。リスキリングの現状と課題、最新の取り組み状況について熱い議論が展開され、産学が連携してリスキリングを推進する重要性を確認した。サミットの内容を2回に分けて紹介する。

「人への投資」 5年で1兆円に拡充

日経リスキリングサミットは岸田首相のビデオメッセージで始まった。

岸田文雄首相

岸田文雄首相

岸田首相が掲げる「新しい資本主義」の第一の柱として、政府は人への投資にかかわる様々な施策を推し進めてきた。今回の総合経済対策で、人への投資に関して従来の3年間で4000億円から5年間で1兆円と大幅に拡充。岸田首相はその理由として、「非連続なイノベーションの実現や、長年にわたり大きな賃上げが実現しないという構造的な課題の解決には、リスキリングと労働移動の円滑化が鍵になるからだ」と説明した。また今後もリスキリングに対する公的支援を強力に推し進める考えを明らかにし、「民間企業も人への投資を企業経営の中核にすえ、リスキリングへの取り組みを進めてほしい」とあいさつした。

学歴・職歴を超えるキャリア形成必要

オープニング講演には、世界最大級の教育プラットフォームを提供するUdemyのチーフ・ラーニング・オフィサーであるメリッサ・ダイムラー氏が登壇した。いまビジネス環境が複雑化する中、あらゆる組織において進化が求められている。ダイムラー氏は「組織とはパーパス(存在意義)、戦略、組織文化が組み合わさったシステムであり、適切なリスキリング施策によって、このシステム全体をアップデートし、継続的に学び続ける組織をつくるのが重要だ」と述べた。

Udemyチーフ・ラーニング・オフィサー メリッサ・ダイムラー氏

Udemyチーフ・ラーニング・オフィサー メリッサ・ダイムラー氏

組織文化は平たくいえば「人と人の間でどのように仕事が進んでいるか」。どのような組織構造で、どのようなプロセスや制度を定め、個々がどのような決定を行うかなど、日々の業務を通じて、組織文化はつくられていくものだ。経営者はこの過程において新たなスキルの獲得を組み込むことで、時代に適合する組織文化を再設計できる。特に昨今は、スキルの陳腐化が急速に進む。世界経済フォーラムは、2025年に2人に1人はリスキリングが必要になるとしている。個人のキャリア形成も、今後は学歴や職歴より、キャリアを通じていかにスキルを得て、どうビジネスに貢献できるかが重要になる。つまり「学びをやめることはできない」(ダイムラー氏)ということだ。

Udemyが世界各国でオンデマンド学習プラットフォームを提供する中で、リスキリングに成功する企業の共通点に気付いたという。「スキル教育を通してビジネスに好影響をもたらす視点を持っていること」「技術面とリーダーシップ面の両方を重視すること」「現場で必要なスキルを獲得させていること」の3つだ。これらをポイントにリスキリング機会を会社が提供し、リーダーが適切にサポートすれば、育った人材も定着する。

ダイムラー氏は「現在日本で需要の高いスキルはリーダーシップ、英語、財務諸表の理解、チームワーク、コーチングなどだ。また技術的なスキルとしては、クラウドやAndroid開発などの技術習得への関心も高い。こうしたリスキリングにも当社のプラットフォームは有効」と主張。専門家からアイデアを学び、実践したことを発表して、チームで改善への意見交換を行う「コホートラーニング」によって身に付けたスキルを強化できると述べた。

リスキリングは経営戦略の打ち手

Udemyと日本における包括業務提携を結んでいるベネッセコーポレーションで、Udemy事業責任者である飯田智紀社会人教育事業部部長が、日本におけるリスキリングの現状とUdemyの取り組みについて講演した。

ベネッセコーポレーション 飯田智紀社会人教育事業部部長

ベネッセコーポレーション 飯田智紀社会人教育事業部部長

いま採用において、理系職種と文系職種で同時に大きな変化が起きているという。理系のデジタル人材は技術への継続的なキャッチアップが不可欠となっている一方、文系のビジネス人材もまた、IT(情報技術)の動向を踏まえてビジネス設計することが求められている。飯田氏は企業の寿命が短命化する中、個人のキャリア観は転職やジョブ型雇用が当たり前の複線型に移行しつつあると指摘。「今後はリスキリングなどの成長機会を提供しない企業は求職者や従業員に選ばれず、従業員も成長し続けなければ評価されない時代になるだろう」と述べた。

ベネッセが行った意識調査(社会人の学びに関する意識調査2022)によると、日本の社会人の過半数は学びへの意識が低く、学ぶきっかけとして、仕事上の必要や会社からの求めなど現業との関連性が必要と考えている。つまり環境整備だけでなく、金銭的なメリットや目標や学ぶ時間の設定など、企業・組織が一体となった働きかけが必要ということだ。

こうした状況の下、日本企業でも階層別研修を見直し、一人ひとりの自律的な学びを促す動きが広まっている。ベネッセの顧客事例では、オンライン・オフラインでの部門を超えた学びに有効性がみられ、これにより社内の共通言語が生まれ、対話の質が向上しているという。「新規ビジネスの立ち上げのほか、DX人材とビジネス人材のギャップの克服、会社が求める仕事と社員のキャリア実現の両立など企業の課題解決につながった例を見聞きする」と飯田氏は紹介した。また自治体の顧客では地域産業の担い手がIT知識を得たことで、新規事業の創出につながった例もあるという。「人材育成戦略は人事戦略そのものであり、リスキリングは経営戦略の打ち手」と主張した。

飯田氏は「持続的な企業価値向上を実現するには組織の生産性を高め、稼ぐ力を向上させる財務資本的なアプローチと、対話の質を高め個人のウェルビーイングにつながる社会関係資本的なアプローチが両輪となる。リスキリングはその両面に貢献する。当社はこうした事業を通して、最終学歴以上に最新学習歴を誇れる社会を目指している。学び続けるすべての人を応援していきたい」と結んだ。

学び直すべきスキルを見える化して提示

スカイハイブ創業者 ショーン・ヒントン最高経営責任者(CEO)

スカイハイブ創業者 ショーン・ヒントン最高経営責任者(CEO)

続く有識者講演には、カナダのスタートアップ企業スカイハイブの創業者であるショーン・ヒントン最高経営責任者(CEO)が登壇した。同社は世界6400万社、10億人規模を対象とする労働市場の情報をデータベース化し、人工知能(AI)でリアルタイム分析する技術を持つ。その技術を活用して提供されるサービス「スキルパスポート」は、労働者にとってリスキリングの旅を支援する全地球測位システム(GPS)のようなもの。求人情報の分析に基づき、労働者に学び直すべきスキルを提示するほか、保有スキルの言語化もサポートする。ヒントン氏は「個々人が持っているスキルに応じて、将来の再就職先や就き得る職種、必要な研修講座も提案できる。働く人にとって、新たなキャリアの扉を開くための支援サービスである」と紹介した。

キャリア向上は、昇給・昇格で報いる

ジャパン・リスキリング・イニシアチィブ 後藤宗明代表理事

ジャパン・リスキリング・イニシアチィブ 後藤宗明代表理事

ジャパン・リスキリング・イニシアチィブの後藤宗明代表理事は、今起こっているリスキリングの課題について講演した。後藤氏は、リスキリングで重要なことは企業が求めるスキルと従業員が持つスキルの差(スキルギャップ)を見える化し、目標を明確にする「学びの定量化」であると主張。「個人の保有スキルを正確に把握するには、ツールを用いた分析を行うとよい」とアドバイスした。その上で従業員とキャリアの方向性を丁寧にすり合わせながら、リスキリングの機会を確保して、スキルを獲得した人には昇給・昇格で報いることが重要である。注意すべき点は、学びに成功体験を持つ人ばかりではないこと。また「リスキリングには時間やコストがかかるので、中小企業に対して国や自治体の助成金も必要」と訴えた。

経営者のコミット、スキルの明確化等が鍵

「2050年の日本未来予想図から考える『社会課題解決としてのリスキリング』」と題する企業講演を行ったのは、EYアジアパシフィックピープル・アドバイザリー・サービス日本地域代表パートナーの鵜澤慎一郎氏。

EY アジアパシフィックピープル・アドバイザリー・サービス 日本地域代表パートナー 鵜澤慎一郎氏

EY アジアパシフィックピープル・アドバイザリー・サービス 日本地域代表パートナー 鵜澤慎一郎氏

日本経済が2050年に世界の国内総生産(GDP)に占める割合が1960年代の水準に下落すると予測される中、「人口減少など様々な課題から、『量』の面で欧米などの先進各国に並ぶ水準を維持することは厳しい状況にあるが、『質』を重視することで人口1人当たりGDPでは先進国の立場を維持することが可能だ」と主張した。

過去30年間の日本における雇用流動化は、製造業から労働集約型サービスへの移行と非正規雇用増加が主で、高付加価値産業への労働移動に失敗してきた。では、今後30年を繁栄の時代とするにはどうすればよいか。鵜澤氏は「衰退部門から成長部門へ、衰退産業から成長産業へと人材を移し、労働生産性を意図的に高めていくことが不可欠」と指摘。そこでいま、優れた人材を戦略的に成長領域へとシフトさせるためのリスキリングが求められていると訴えた。

リスキリングも黎明(れいめい)期を過ぎれば、成果が頭打ちになる段階がくる。そこでひるまずに継続できるかが、日本経済がV字回復できるかの分かれ道となる。

鵜澤氏はV字回復の成否を分けるポイントを5つ挙げた。1つ目は「人事部ではなく経営者がリスキリングにコミットすること」。2つ目は「会社主導で必要なスキル、人材像を明確化すること」。3つ目が「学んだスキルを生かす配属」。4つ目は「成果が出るまで、短くても半年から1年以上の視野を持つこと」。そして最後が「先入観を持たず全従業員を対象とすること」だ。

先進的な企業では文系のデジタル人材や、ベテランでリスキリングに成功している人がたくさんいる。鵜澤氏は「どの企業も試行錯誤だが、やらない選択肢はない。個人の問題でも人事部の問題でもなく、経営課題・社会課題なのだ」と述べ、講演を終えた。

特別協賛: ベネッセコーポレーション、Udemy

協賛: EY Japanパーソルホールディングスグロービス

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