
日本海に面した富山湾は、魚種の豊富さから「天然のいけす」と称される。そこで水揚げされた新鮮な魚介類を中心に富山県の食の魅力を存分に堪能できる店が東京・日本橋にある「富山はま作」だ。県のアンテナショップ「日本橋とやま館」併設の和食レストランだが、アンテナショップの店と侮るなかれ。店内のしつらえもさることながら、腕をふるう料理長のキャリアも折り紙付きでプレミアム感にあふれる。
春はホタルイカ、夏は白エビ、秋はベニズワイガニ、冬は寒ブリ――。富山には四季折々を代表する海の幸がある。約3カ月のサイクルで順次シフトしながら季節が巡る。これからの時期は寒ブリがうまい。激しい荒波を乗り越えて富山湾へとたどりついたブリは脂が乗り、味がよく鍛えられている。「富山湾の王者」の異名をとるのもうなずける。
ランチの「富山湾刺身定食」(1880円)や「温かい氷見うどんとます寿しセット」(1530円)、ディナーの海と山の幸を楽しむ「あいの風」コース(6980円)をはじめとした多彩なコース料理もいいが、この時期には「ブリづくし」コースを味わいたい。事前予約がいるが、寒ブリの刺し身、ブリ大根、ブリ雑炊などがセットになり、ランチは6980円、ディナーは1万2800円だ。ディナーコースの寒ブリの刺し身は厳選した3つの異なる部位の「三種盛り」が味わえる。昆布と酒でブリのアラや中骨を炊き、完全にアクが抜け透明になるまでとり続けて、ブリのうま味が凝縮した「ブリスープ」を大根に含ませた、ジューシーで上品な味わいのブリ大根もおすすめだ。

料理の腕を振るう料理長の浜守淳さんは富山県射水市の出身。地元の高校を卒業後、料理人の道を志し上京した。最初に修行した先は東京・赤坂に当時あった料亭。政治家や文化人など著名人が数多く出入りするような格式ある店だった。調理場を仕切っていた師匠が同じ富山県出身だったのが縁で弟子入り。料理人としてのイロハを学び、「ただただうまいものを出せばいいんだ」との師匠の教えを今も胸に刻む。赤坂の料亭で3年修業した後、東京・新宿の和食店でさらに7年働き独立。東京・東銀座に小さな和食店を構え、地元・富山の魚介類など「うまいもの」をひたすら17年間出し続けてきた。
赤坂の料亭勤務時代の「まかない飯」の味は今も忘れない。師匠がいう「うまいものとは何か」をしっかりと学んだ。独立後も料理の盛り方など見栄えにもうるさい常連客らに厳しく鍛えられてきた。