
国土交通省が発表した2021年の基準地価によると、東京圏の地価は堅調に推移しています。新型コロナウイルスの感染拡大で、インバウンド(訪日外国人)が急減したエリアは下落が目立ちますが、全用途平均は前年比0.2%の上昇。オフィス用不動産の活発な取引が都心地価を下支えしているようです。
新型コロナの影響で足元のオフィスビル空室率は徐々に上昇し、賃料(家賃)は下がっています。賃料が下がれば不動産取引価格も下がるはずですが、「むしろ都心部の良好な物件はつり上がる状況」と、三菱UFJ信託銀行不動産コンサルティング部の大溝日出夫フェローは指摘します。
不動産取引価格は賃料と、投資家が「これくらいの利回りはほしい」とする期待利回りで決まります。簡単にいうと取引価格は、賃料収入を期待利回りで割って求められます。
日本不動産研究所が調べたオフィスビルの期待利回りは、東京都心の丸の内・大手町で3.5%と、前回調査(昨年10月)と同じ。この数値は回答を順に並べた中央値なので、半数はそれより低い値です。分子(賃料収入)が一定なら、分母の期待利回りが下がる(低くなる)と、取引価格は上がることになります。
「入札動向を見ても取引価格は上昇基調」と同研究所の慎明宏研究部次長はいいます。回答企業の94%が投資に前向きな意向を示しており「投資マインドは積極的」と慎氏はみます。
多くの専門家が注目するのが海外勢の旺盛な投資意欲です。業績が悪化した企業がリストラ目的で売却した本社ビルなどを、海外投資ファンドが積極的に取得しています。海外勢には海外不動産価格との比較で日本の不動産が割安に映っているのだそうです。
不動産投資信託(REIT)の活発な不動産取引も一役買っています。今年のREITの物件取得額は9月末で1.28兆円。前年同期を上回りオフィスは4割強を占めます。このペースで進めば19年(1.45兆円)や20年(1.39兆円)を上回る見通しです。「REIT各社は賃料低下や空室率上昇で悪化した収益を、物件入れ替えによるポートフォリオの質向上で改善しようとしている」とSMBC日興証券の鳥井裕史シニアアナリストはみます。