エレベーターの扉をスクリーンに見立てた「エレシネマ」

もともとビジネスに興味があったわけではない。東大理学部地球惑星物理学科の出身で、大学院まで天文学を専攻した。同学科はわずか30人前後で、大半は研究者やエンジニアの道に進む。学部時代の恩師は、はやぶさ2に搭載した光学航法カメラを開発したことで知られる杉田教授。羅さんは「地球外生命体の発生可能性」をテーマに、研究にのめり込んでいた。ビジネスとは真逆の方向性だ。

子供の頃から天文学へ一直線だった

両親は中国出身で、文化大革命時代に幼少期を過ごした。父親の羅志偉さんは国費留学生として来日し、現在は神戸大学大学院教授として介護用ロボットの研究開発に従事している。母親はソフト開発のエンジニアだ。羅さん自身は愛知県で生まれ育ち、神戸市の六甲学院中学・高校に進学。周辺では灘高や甲陽学院と並ぶ名門私立校だ。

理系の教育熱心な家庭で育ち、子供の頃から天文台などに連れて行かれるうち天文学に興味を覚えた。中高では野球部で汗を流す一方、天文気象部に入り宇宙の神秘に触れた。当初の志望先は京都大学理学部だったが、国際交流プログラムで米国のプリンストン大学に派遣されて気持ちが変わった。開成高校など他の進学校からの参加生徒が、みんな東大志望だったからだ。米国の大学にも関心があったものの、結局東大に進学した。

進学後は希望通り、天文学を専攻。はやぶさ2のプロジェクトに心がわいた。土星の衛星エンセラダスには地球外生命の可能性があるといわれている。米航空宇宙局(NASA)は1997年に土星探査機「カッシーニ」を打ち上げ、2004年に土星の軌道に投入。タイタンやエンセラダスなどの探査を行い、17年に20年間に及ぶミッションを終了した。探査プロジェクトには気が遠くなるような年月とお金が必要となる。

はやぶさ2の総開発費でも300億円弱だったが、土星の衛星でのサンプルリターンなどの探査なら1500億円はかかるのではないか――。羅さんは「たとえ僕が日本の首相になっても、そんな予算は付けられないでしょう。100年後の人類に貢献したいと研究するのは自分にはできない。サイエンスは向いていない」と悟ったという。

そうして夢を諦めかけたとき、目にしたのは宇宙ビジネスに挑むイーロン・マスク氏など米国の起業家だった。「成功した起業家は次々宇宙ビジネスに投資していて、日本でも孫正義さんのように何兆円も稼ぐ起業家がいる。だったら起業家として成功して土星の衛星の地球外生命探査に投資しよう」と、研究者から起業家の道に方針転換した。

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起業後2年間は売り上げゼロ