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都会と田舎のアライグマ どちらが賢いのか?

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ナショナルジオグラフィック日本版

1900年代初頭、当時盛んだった動物心理学を専門とする米国の科学者らが、ある壮大な計画を思いついた。北米に数多く生息し、賢いことで知られるアライグマを研究室に持ち込み、動物の知能について実験をしようというのだ。

この計画はしかし、すぐに頓挫してしまった。霊長類に似た前脚を器用に操るアライグマたちが、ケージからの脱走を繰り返したためだ。「科学者たちは降参して、以前と同じようにラットやハトを相手にすることにしたわけです」と、カナダ、ブリティッシュ・コロンビア大学の行動生態学者サラ・ベンソン=アムラム氏は笑う。「そんなわけで、アライグマの認知についての研究はまだ始まったばかりです」

米国のほとんどの都市に生息するこの雑食性の動物は、ゴミ箱や家屋、そのほか人間が作った建物に侵入することで知られている。これまでのところ、ベンソン=アムラム氏の調査結果は、アライグマの北米大陸各地の郊外および都市部への進出には、賢さが関与していると示唆している。

ベンソン=アムラム氏の研究チームは、野生および飼育下のアライグマを対象に、おやつを手に入れるために複数のレバーの押し方を学ぶといった難しいタスクを課すさまざまな実験を行っている。その大半において、アライグマは科学者たちが想像もしなかった解決策を導き出してきた。

アライグマは、ポップカルチャーにおいてかわいいキャラクターとして人気がある一方で、一部の人たちにとってはゴミ箱をあさりに来る厄介な存在でもある。

そのため、ベンソン=アムラム氏らは最近、ブリティッシュ・コロンビア大学・都市野生動物プロジェクトを立ち上げ、バンクーバー全域において、アライグマ30匹、コヨーテ10匹にGPS(全地球測位システム)の首輪を取り付け、動物たちが都市環境にどう適応し、これを利用しているのかを調査することにした。また、街中に遠隔カメラを設置し、動物たちが人とどのようにかかわっているか観察する予定だ。

その目的は「人間と野生動物がよりよい形で共存できるようになること」だと、ベンソン=アムラム氏は言う。

都会のアライグマ

アライグマは知的であるだけでなく、都市生活に適した多くの資質を持っている。夜行性であるため人間との衝突が避けられ、また食性も幅広い。

たとえば彼らは、果物から昆虫、カエル、ジャンクフードまで、ほとんどなんでも食べる。

アライグマの中には、大型のゴミ収集容器からほぼ3ブロックの範囲内で一生を過ごすものもいると、カナダ、ヨーク大学の心理学者およびナショナル ジオグラフィックのエクスプローラーで、都会のアライグマの認知を研究しているスザンヌ・マクドナルド氏は述べている。

これは、約4〜26平方キロのなわばりをもつ田舎のアライグマとは非常に対照的だ。「ひとつの大型ゴミ容器から得る食べ物で生きていけるなら、それがその個体の生活圏ということです。食べて、飲んで、交尾ができればいいわけですから」

アライグマにとってもうひとつの恩恵は温暖化だ。気候変動によって世界中で気温が上昇するに従って、アライグマはこの先、米国やカナダ、また彼らが外来種として住み着いている日本やドイツといった国々でも、さらに北部の地方へと広がることが予想されている。

アライグマはまた、敏感な5本指の前脚を持ち、滑りやすい水中の獲物などをつかんでその感触を確かめることができる。「おそらくはそのせいで、カナダのトロント、バンクーバー、米シカゴなど、川の周辺に作られた温暖な都市で特に多く見られるのだ」とマクドナルド氏は言う。その柔軟な前脚はまた、車の後部座席に乗り込んだり、高層ビルに登ったりと、人間の環境を利用する際にも有利に働く。

2017年9月29日付の学術誌「Animal Cognition」に発表された研究で、当時ベンソン=アムラム氏の研究室の博士課程に在籍していたローレン・スタントン氏は、飼育下にあるアライグマを対象に、知能を測る古典的な手法である「イソップ寓話(ぐうわ)テスト」を行った。この実験では、アライグマは水を入れたシリンダーに石を落として水面を上げ、そこに浮いているおやつ(この場合はマシュマロ)を上方へ移動させなければならない。

アライグマのうち2匹が正確に石を落としただけでなく、3匹目の個体は戦略をがらりと変え、シリンダーを倒してマシュマロを手に入れるという独自の解決策を編み出した。これは、アライグマが持つ既成概念にとらわれない発想力の一例と言える。

「都会の戦士」の誕生

アライグマがもともと都市での生活に向いているというのは科学者の一致した意見だが、より複雑な問題としては、都会のアライグマは果たして、世代を経ることで田舎のアライグマよりも賢く進化しているのかというものがある。たとえば、マクドナルド氏の調査では、バンクーバーの繁華街にいるアライグマは、伸縮性のあるロープで蓋が固定してあるゴミ容器を開けることができるが、農村部にいる個体にはできないことが示されている。

「彼らは進化しており、また、都市環境が彼らの自然な特性に合ってもいるのだと、わたしは考えています」とマクドナルド氏は言う。「もともと適応力のある動物が、さらに進化して都会の戦士になるというわけです」

ベンソン=アムラム氏は、今はまだ、アライグマが都市生活における自然選択を通じて進化しているのかどうか判断するのは時期尚早と考えている。しかし、アライグマ対策用のゴミ容器を設計するといった、彼らを阻止しようとする人間の試みが、「実際により賢い個体を作り出している可能性は大いにあります」と言う。

たとえば、マクドナルド氏は最近、トロント市に対し、アライグマ対策用の新しいゴミ容器を提案した。この容器には、ほかの指と向かい合わせに配置された親指がないと開けられないレバーが付いているが、アライグマの手はそうした構造になっていない。「彼らを知恵で負かすことはできません」とマクドナルド氏は言う。「人間の手でなければできないことをする必要があるのです」

ただし、都市部のアライグマが常に田舎のアライグマよりも賢いとは限らない。英ハル大学の比較心理学者ブレイク・モートン氏は、ノースカロライナ州ローリー周辺の都市部および農村部において、哺乳類の革新性を調べるいくつかの実験を行っている。

あるテストでは、ペットフードを入れたコップを木から糸でつり下げた。一部のコップは、枝に乗ったアライグマが簡単に引き上げることができるが、中には糸がつるつるとしていてつかみにくいものもある。カメラトラップ(自動撮影装置)を使い、モートン氏はアライグマがこの難問にどう取り組むかを観察する。

「ここから見えてくるのは、アライグマは非常に積極的に新しいことを試し、また問題解決能力に優れているということです。ただし限界はあります」とモートン氏は言う。例えば、難しいパズルにチャンレンジしているとき、アライグマは30秒ほどで諦めてその場を離れてしまうという。

霊長類であれば、同じようなパズルを与えられたときには、もう少し長くとどまって考える場合が多いが、「彼らがそうしないというのは驚きです」とモートン氏は言う。その理由はあるいは、アライグマが単に、ほかにもっと簡単に手に入る食べ物があると知っているせいなのかもしれない。これもまた、彼らの革新性と適応性の一例である可能性はある。

さらに驚くべきは、これまでのところ、実験において都会のアライグマと田舎のアライグマに違いが見られないことだ。

「都会にいるからといって、動物が新しい技術を身につけるとは限らないのです」とモートン氏は言う。

アライグマとの共生

たとえ環境に順応していたとしても、アライグマにとって都会の生活は楽なことばかりではなく、生後1年以内に車にひかれてしまう個体も少なくない。

また、毎年春に2〜5匹の赤ん坊を産むメスのアライグマは、子供たちを育てるねぐらを幾つも見つけなければならないという難題に直面する。郊外や都市部では、多くの場合、彼らは人家に入り込むことになる。

そのため、「米国各地にある幾つかの野生動物レスキュー会社は最近、アライグマ、コウモリ、リスなどの動物を安全に建物から出し、子供がいる場合は母子を一緒にさせた後で、彼らが同じ建物にもう一度入るのを防ぐという戦略を採用するようになった」と、米国人道協会の都市野生動物プログラム担当シニアディレクター、ジョン・グリフィン氏は言う。

米国人道協会は、地域の人々を対象に、動物を殺さずに排除するアプローチをとることがなぜ倫理的であるのかについての教育を行っている。

こうした手法を積極的に広めているジュニオ・コスタ氏は、米サンフランシスコのベイエリアで、野生動物を殺さずに立ち退かせるサービスを提供する会社「ミスター・ラクーン」を運営している。

典型的な依頼は、アライグマの母親が屋根裏や煙突などの狭い空間に住み着いてしまったというものだ。建築業の経験を持つコスタ氏は、まず母アライグマが建物に侵入した入り口を探す。アライグマがいる場所を確認したら、次に子供たちを安全に外に連れ出し、母親が使った入り口のそばに置いた箱の中に入れておく。じきに母親がやってきて、子供たちを別のすみかへと移動させる。その後、コスタ氏は入り口を塞いで、一家が再び建物に入らないないようにする。

しかし、多くの人はまだ、わなで捕獲したり殺したりといった、コスタ氏に頼むよりも安く上がる手法を選ぶという。

「アライグマは、わたしたちと同じように生きようとしているだけです」とコスタ氏は言う。「場所を分かち合うことはできるはずです。動物たちにも敬意を払う必要があります」

(文 CHRISTINE DELL'AMORE、写真 COREY ARNOLD、訳 北村京子、日経ナショナル ジオグラフィック)

[ナショナル ジオグラフィック 日本版サイト 2022年7月27日付]

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