日経ナショナル ジオグラフィック社

霊長類であれば、同じようなパズルを与えられたときには、もう少し長くとどまって考える場合が多いが、「彼らがそうしないというのは驚きです」とモートン氏は言う。その理由はあるいは、アライグマが単に、ほかにもっと簡単に手に入る食べ物があると知っているせいなのかもしれない。これもまた、彼らの革新性と適応性の一例である可能性はある。

さらに驚くべきは、これまでのところ、実験において都会のアライグマと田舎のアライグマに違いが見られないことだ。

「都会にいるからといって、動物が新しい技術を身につけるとは限らないのです」とモートン氏は言う。

アライグマとの共生

たとえ環境に順応していたとしても、アライグマにとって都会の生活は楽なことばかりではなく、生後1年以内に車にひかれてしまう個体も少なくない。

また、毎年春に2〜5匹の赤ん坊を産むメスのアライグマは、子供たちを育てるねぐらを幾つも見つけなければならないという難題に直面する。郊外や都市部では、多くの場合、彼らは人家に入り込むことになる。

サンフランシスコの屋根裏から救出したアライグマの子供を手に持つ「ミスター・ラクーン」のオーナー、ジュニオ・コスタ氏。コスタ氏の会社は、アライグマを殺すことなく、人道的に建造物から立ち退かせるサービスを提供している(PHOTOGRAPH BY COREY ARNOLD)
「ミスター・ラクーン」の従業員が捕まえたこのアライグマは、この後、母親のもとに連れて行かれた。メスのアライグマには強い母性本能があり、子供と引き離されると何がなんでも助けようとする(PHOTOGRAPH BY COREY ARNOLD)

そのため、「米国各地にある幾つかの野生動物レスキュー会社は最近、アライグマ、コウモリ、リスなどの動物を安全に建物から出し、子供がいる場合は母子を一緒にさせた後で、彼らが同じ建物にもう一度入るのを防ぐという戦略を採用するようになった」と、米国人道協会の都市野生動物プログラム担当シニアディレクター、ジョン・グリフィン氏は言う。

米国人道協会は、地域の人々を対象に、動物を殺さずに排除するアプローチをとることがなぜ倫理的であるのかについての教育を行っている。

こうした手法を積極的に広めているジュニオ・コスタ氏は、米サンフランシスコのベイエリアで、野生動物を殺さずに立ち退かせるサービスを提供する会社「ミスター・ラクーン」を運営している。

典型的な依頼は、アライグマの母親が屋根裏や煙突などの狭い空間に住み着いてしまったというものだ。建築業の経験を持つコスタ氏は、まず母アライグマが建物に侵入した入り口を探す。アライグマがいる場所を確認したら、次に子供たちを安全に外に連れ出し、母親が使った入り口のそばに置いた箱の中に入れておく。じきに母親がやってきて、子供たちを別のすみかへと移動させる。その後、コスタ氏は入り口を塞いで、一家が再び建物に入らないないようにする。

カリフォルニア州フォスターシティにあるアパートの屋根から顔をのぞかせるアライグマ。「ミスター・ラクーン」のオーナー、ジュニオ・コスタ氏は、中にいるアライグマが後戻りできないよう、屋根に一方通行の扉を設置した(PHOTOGRAPH BY COREY ARNOLD)

しかし、多くの人はまだ、わなで捕獲したり殺したりといった、コスタ氏に頼むよりも安く上がる手法を選ぶという。

「アライグマは、わたしたちと同じように生きようとしているだけです」とコスタ氏は言う。「場所を分かち合うことはできるはずです。動物たちにも敬意を払う必要があります」

(文 CHRISTINE DELL'AMORE、写真 COREY ARNOLD、訳 北村京子、日経ナショナル ジオグラフィック)

[ナショナル ジオグラフィック 日本版サイト 2022年7月27日付]