都会と田舎のアライグマ どちらが賢いのか?

日経ナショナル ジオグラフィック社

ナショナルジオグラフィック日本版

米オレゴン州ポートランドのガイ・ベリンガムさんの裏庭を探索中、カメラトラップ(自動撮影装置)にとらえられたアライグマ。雑食性の彼らは毎晩やってきては、キャットフードを食べ、庭の池にいるコイを狙う(PHOTOGRAPH BY COREY ARNOLD)

1900年代初頭、当時盛んだった動物心理学を専門とする米国の科学者らが、ある壮大な計画を思いついた。北米に数多く生息し、賢いことで知られるアライグマを研究室に持ち込み、動物の知能について実験をしようというのだ。

この計画はしかし、すぐに頓挫してしまった。霊長類に似た前脚を器用に操るアライグマたちが、ケージからの脱走を繰り返したためだ。「科学者たちは降参して、以前と同じようにラットやハトを相手にすることにしたわけです」と、カナダ、ブリティッシュ・コロンビア大学の行動生態学者サラ・ベンソン=アムラム氏は笑う。「そんなわけで、アライグマの認知についての研究はまだ始まったばかりです」

米サンフランシスコ、ゴールデンゲートパークのノースレイク付近には、一晩に少なくとも20匹のアライグマが集まってくる。人々はいつも彼らにドッグフード、サワークリーム、ポテトチップスなどのスナックを与えているが、これは違法行為だ(PHOTOGRAPH BY COREY ARNOLD)

米国のほとんどの都市に生息するこの雑食性の動物は、ゴミ箱や家屋、そのほか人間が作った建物に侵入することで知られている。これまでのところ、ベンソン=アムラム氏の調査結果は、アライグマの北米大陸各地の郊外および都市部への進出には、賢さが関与していると示唆している。

ベンソン=アムラム氏の研究チームは、野生および飼育下のアライグマを対象に、おやつを手に入れるために複数のレバーの押し方を学ぶといった難しいタスクを課すさまざまな実験を行っている。その大半において、アライグマは科学者たちが想像もしなかった解決策を導き出してきた。

アライグマは、ポップカルチャーにおいてかわいいキャラクターとして人気がある一方で、一部の人たちにとってはゴミ箱をあさりに来る厄介な存在でもある。

そのため、ベンソン=アムラム氏らは最近、ブリティッシュ・コロンビア大学・都市野生動物プロジェクトを立ち上げ、バンクーバー全域において、アライグマ30匹、コヨーテ10匹にGPS(全地球測位システム)の首輪を取り付け、動物たちが都市環境にどう適応し、これを利用しているのかを調査することにした。また、街中に遠隔カメラを設置し、動物たちが人とどのようにかかわっているか観察する予定だ。

その目的は「人間と野生動物がよりよい形で共存できるようになること」だと、ベンソン=アムラム氏は言う。

都会のアライグマ

アライグマは知的であるだけでなく、都市生活に適した多くの資質を持っている。夜行性であるため人間との衝突が避けられ、また食性も幅広い。

サンフランシスコ、ゴールデンゲートパークのストウレイク付近で、闇に紛れてゴミ箱を荒らすアライグマたち(PHOTOGRAPH BY COREY ARNOLD)

たとえば彼らは、果物から昆虫、カエル、ジャンクフードまで、ほとんどなんでも食べる。

アライグマの中には、大型のゴミ収集容器からほぼ3ブロックの範囲内で一生を過ごすものもいると、カナダ、ヨーク大学の心理学者およびナショナル ジオグラフィックのエクスプローラーで、都会のアライグマの認知を研究しているスザンヌ・マクドナルド氏は述べている。

これは、約4〜26平方キロのなわばりをもつ田舎のアライグマとは非常に対照的だ。「ひとつの大型ゴミ容器から得る食べ物で生きていけるなら、それがその個体の生活圏ということです。食べて、飲んで、交尾ができればいいわけですから」

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「都会の戦士」の誕生