――リングヂャケットの服はナポリの仕立てをベースにしているといいますが、何が違うのですか。

「僕はスーツやジャケットは手間暇をかけるほどいいものができると信じています。リングヂャケットでは表情の出る軽やかさ、柔らかさに徹底してこだわっていて、肩パッドや芯地といった副資材を使わず、生地1枚で仕立てます。これがナポリのやり方です。細かなアイロンワークや縫製技術によって丸みを作ったりして、しわが出ないように仕立てていきます」

「副素材を使わなければ、服が大きくならずに済むんです。コンパクトであっても体が楽に動く。丁寧な襟つけで首に重心が置かれ、裾がきれいに逃げる。子供を抱っこしたらしんどいけれど、おんぶしたら楽みたいな表現ですと、分かりやすいでしょう」

生産効率は追わず 手間暇かけて縫う

――どのくらいのペースで服を作っていますか。

「パンツ以外の重衣料は全て大分と大阪の工場で作っています。職人は合わせて75人いて、1日あたり90~100着くらいを作ります。この人員体制ならば、2倍の量を作っていてもおかしくはない。最低数量でいっても普通は150着くらいのはずです。でも、うちは生産効率を追ってミシンの速度を上げる工場とは違い、ゆっくりゆっくり手間暇かけて縫っているんです」

「一般的な縫製工場で多く働いている外国人研修生もいません。というのも、日本各地から職人志望者がどんどん来るからです。うちで働いた後にイタリアで修業をし、東京・青山に『Sartoria Ciccio(サルトリア・チッチオ)』を開いた上木規至さんみたいな有名テーラーを輩出していることも大きいのでしょう」

オーデマ ピゲのロイヤルオークを愛用する。極薄なところが好きで「手が小さい僕にぴったり」。ブシュロンのブレスレットを合わせて

――メードインジャパンの良いスーツとして海外でも知られるようになりました。

「香港とニューヨークにある『THE ARMOURY』をはじめ、海外の有力セレクトショップが発信源となってブランドが認知されました。海外の取引先は現在50社まで増え、売り上げは国内と肩を並べる水準です。これからはもっと手間暇をかけ、もっと手縫いを進化させた服を作ろうと思っています」

――いいものを一度着ると、元に戻れなくなりますか。

「絶対に戻れないと思いますよ」

(聞き手はMen's Fashion編集長 松本和佳)


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