――どう分析していますか。

「今、スーツを仕事着として買い求める人は少なくなり、自分が楽しみたいという理由で買われているお客さまが断然増えてきたと感じています。僕自身もそう。より自分をすてきに見せたり、仕事ではここぞという時に着て気分を高めたりするなど、スーツは自分が楽しむために着るものなんです。何よりスーツには『色気』がある」

合わせた靴はオールデン。「昔からとても好きなブランドです。クラシックでいいでしょ」

――スーツに対する意識が変わってきたと見ているのですか。

「そうです。世の中で多くの男性が制服のようにスーツを着なくなったのは確かでしょう。若い人などは特にそうかもしれません。だからこそ、自分だけはちょっと違うぞと見せたい人が増えてきました。スーツに求める特別な意識が強くなってきたと思っています」

安いスーツは売れず 売れ筋は20万円

――でも業界では全般に苦戦しています。

「こういう言い方はどうかと思いますが、安いスーツが売れていないんです。6万~7万円くらいのものであってもなかなか売れない。良い物ほど売れています。うちの春物では売れ筋の平均価格が20万円。かつて10万円台前半の商品をセカンドラインと称して作っていたのですが、当時から売れていませんでした。上質な素材を使い、付加価値の高い商品を目指したら、どんどん売れるようになっていきました」

「服が売れるか売れないか。その違いはぱっと見て感じる色気があるかどうかだと思っています」

――売れないスーツには何が足りないのでしょうか。

「色気です。服に色気がないんです。色気といいましたが、表情といってもいいと思います。肩のラインですとか、素材が醸し出す雰囲気ですとか。今の男性が求めているスーツやジャケットはかっちりしたものではなく、着ていてリラックスできるもの。ネクタイを締めてぴしっとしていても、体は楽だから自然と笑顔になれる。断然、着心地が重視されています」

「専門知識がない一般の方が、ぱっと見て感じる何かがあるかどうか。いけているのか、いけていないのか。そこにこだわっているのが僕たちの仕事なのです。もっといえば、今、服を買っている男性はそういう服の表情のあるなしが分かる人。そこに興味がある人だということです」

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