
米カリフォルニア州エルクの崖の上にあるレストラン付き宿泊施設「ハーバーハウス・イン」では、太平洋を眺めながらミシュランの星付きの新鮮な地元産シーフード料理が楽しめる。だが、眼下の海で漁獲されるアメリカムラサキウニはおいしいだけではない。 このウニを食べれば、地域の自然保護活動に協力することになるのだ。
アメリカムラサキウニは、昆布の仲間であるケルプの森を荒廃させる要因になっている。ケルプの森は、多様な海洋生物が保たれる沿岸生態系にとって重要な柱だが、近年は危機的なペースで減少している。カリフォルニア州北部の沿岸では2014〜2019年の間に、コンブ科の海藻ブルケルプの約95%が失われた。

ウニの増加を抑制するヒトデが「ヒトデ消耗性疾患」のまん延で激減したうえ、海洋熱波、気候変動、エルニーニョ現象が加わって最悪の状況となり、かつて豊かだったメンドシーノ郡の沿岸生態系は急激に衰退している。2019年には、ケルプを食べるアメリカムラサキウニの数が通常の60倍に達した。



「多くの場所では、まるでケルプの森が伐採された跡に紫色のカーペットが敷きつめられたようになっています」と話すモーガン・マーフィ・カネラ氏は、非営利団体リーフ・チェック・ワールドワイドのケルプ回復コーディネーターだ。同団体ではサンゴ礁やケルプの森を保全する科学ボランティア活動を行っている。
風によって生じる湧昇流(深層から海面への流れ)で冷たく栄養分に富む海水が上がってくるおかげで、ケルプは2020年以降わずかに増加したものの、問題解決には程遠いと科学者らはみている。「この海域は、健全な生態系に回復したとはとても言えない状態です」と、自然保護団体ネイチャー・コンサーバンシーのケルプ・プロジェクトの責任者、トリスティン・マクヒュー氏は話す。
こうした危機に対して、一般の旅行者は何ができるだろうか。研究者たちがデータを注視する一方で、旅行者たちは沿岸の環境について学んだり、地域の海岸清掃活動に参加したりできる。そして、機会があればレストランでウニを賞味することも保全活動のひとつになる。