衆院選当選者の女性比率、9.7%に低下 識者に聞く
男女の候補者数をできる限り均等にするよう政党などに求める「政治分野の男女共同参画推進法」成立後、初めて行われた衆院選。与党を中心に女性候補は増えず、候補者に占める割合は17.7%。当選者では9.7%にとどまり、前回の2017年衆院選の10.1%から0.4ポイント減少した。女性の政治参画を進めるにはどのような改革が必要だろうか。
「選挙制度の見直し必要」ウプサラ大助教授・奥山陽子氏
――今回の衆院選も当選者の女性比率が低迷しました。
「候補者比率が向上せず、当選者比率も向上しようがなかった。背景には女性政治家が増えづらい社会環境がある。再選回数に上限がない小選挙区制は現職が優先され、新しく女性候補を立てる余地が少ない。政党によっては男女均衡を目標に掲げなくても有権者に嫌われないと考えており、女性を擁立しようという動きが活発にならない」
「日本は男女の性別役割分担が根強い国だ。女性は家庭の責任を負い、政治の世界へ入ることに家族から反対される例が少なくない。ハラスメントも深刻で、安心して立候補できない現状がある」
――女性議員が増えることの効用は何でしょうか。
「民主主義は全市民が参加するときに最もうまく機能する。各国の研究からは、女性議員が増えると女性有権者が主体的に担ってきた課題が政策議論となることがわかっている。フランス議会では女性は男女平等を実現する諸法案で、男性は軍事関連法案でそれぞれ修正案をより多く出した。結果として、多様な論点を網羅できるようになった」
「興味深いのはスウェーデンを対象にした研究だ。女性議員の増加がリーダーとしての能力が高い男性議員の誕生を促した。競争が男性議員のレベルも上げたのだ。日本では教育など未来世代への投資が増え、経済成長につながる可能性がある」
――クオータ制や男女同数を擁立するパリテを導入する国も多いです。
「スウェーデンはクオータ制を義務付ける法律はなく、政党が自主的に男女均衡に候補を立てようとする。政治の土壌として、ジェンダーのバランスに配慮しないと国民の信頼を失う、という認識が浸透している」
――今回の衆院選では、小選挙区比例代表並立制を導入した1996年以降、初めて20~30代の候補者が全体の1割を切りました。
「クオータ制は女性比率を上げる効果が期待されるが、性別問わず年齢分布も含めて目配りが要る。古い価値観の物差しを握りしめた政治のままでは女性も増やせない。投票率を上げ、有権者が政治に目を光らせること。また、再選回数に上限を設けたり、小選挙区と比例代表の重複立候補をできないようにしたりするなど、選挙制度も含めた政治のデザインを考え直すことが求められている」
「ハラスメントなくし、心理的安全性の確保を」スタンドバイウィメン代表・浜田真里氏
――ハラスメントに悩む女性議員や候補者を支援する団体を立ち上げました。
「候補者の男女均等を政党に促す法律ができたのに、当選者の女性比率が後退してしまったことはショックだ。私はこれまで約60人の女性地方議員にハラスメントの聞き取り調査をした。女性議員が増えない理由のひとつにハラスメントがあると考えている」
「新型コロナウイルス下では街頭に自由に出られなかったこともあり、SNSは議員活動に必要なツールとなった。そのため、私たちはオンラインハラスメントに焦点を絞り、活動している。ハラスメントに自身で対処するのは難しく、第三者の介入が要る。現在、研究者や学生など12人がボランティアとしてかかわり、これまで7人を支援した。SNSでの被害相談に応じたり、対策ツールを活用して不適切なコメントを本人の代わりに非表示にしたりする」
――内閣府が今春公表した調査では、女性地方議員の58%がハラスメントの被害経験があり、男性のおよそ2倍にのぼりました。
「地方議員は国会議員と異なり、秘書を公費で雇えない。住民の要望からハラスメントまで全て自分で対応しなければならず、ダメージを直接受ける。都道府県より市区町村議会の女性の方が、よりセクハラや誹謗(ひぼう)中傷に苦しんでいる。住民にとって身近で要望を伝えやすい存在であることが背景にある」
「最もハラスメント被害を受けるのは1期目、という傾向がある。それでは2期目に挑戦しようとは思えず、ほかの女性も後に続かない。ハラスメントは同僚議員から受ける例も多い。今後は議員に対する研修や、防止に向けた倫理規定整備なども必要だ。心理的な安全性を確保して地方議会で経験を積めば、国政に挑戦しようという女性も増えるだろう」
――ハラスメント対策以外で、女性議員を増やすために有効な手段は何でしょうか。
「(候補者や議席の一定数を女性に割り当てる)クオータ制の導入だ。列国議会同盟によると、世界の国会議員に占める女性の割合は平均25・8%だ。クオータ制が女性議員を増やすのに有効であることは明らかになっている。24時間働く政治家が理想とされるなど、立候補の壁はいくつもある。そのひとつひとつを壊していくことと、クオータ制導入を同時に進めないと、日本は変われない」
「2535」実現に向け議論を
「2535」という数字がある。国は2025年までに、国政や地方選挙の候補者に占める女性を35%に高める目標を掲げているのだ。22年夏の参院選、23年春の統一地方選を経て、次の衆院選までに今回の倍の水準の候補者を立てる必要がある。政治分野の男女共同参画推進法は男女均等を努力義務にとどめており、早くも実現が不安視されている。
国には企業などの指導的地位に占める女性比率の目標を修正した経緯がある。20年に30%に高めるとしていたのに「20年代の可能な限り早期に30%」とゴールポストを動かした。今回も女性比率が低かった与党を中心に根本的な議論や総括をしなければ、2535の実現はさらに遠くなる。その結果、女性を重要な意思決定の場に加えようとする世界の潮流から取り残されてしまう。
(女性活躍エディター 天野由輝子)
[日本経済新聞朝刊2021年11月8日付]
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