会社の部長が少年野球の監督をするメリット

管理職と部下の相互理解のベースとして重要になるのが、「イントラパーソナル・ダイバーシティ」だと佐藤さんは言います。従来のダイバーシティは、社員「間」の多様性でしたが、「イントラパーソナル・ダイバーシティ」は「個人『内』の多様性」で、一人ひとりが仕事の役割以外にもさまざまな役割も担うことで、その結果として個人の中に多様な価値観を受け入れることを指します。

写真はイメージ=PIXTA

「例えば、ある会社の部長が、地域の少年野球チームの監督を引き受けたとします。金曜日の夜7時から保護者の集まりを開催したときに、出席予定だったお母さんの一人から『上司から急な残業を指示されてしまったので、今日は出席できません』と連絡が来たりするわけです。そのことを他のお母さんたちに報告すると、『急に残業しろ、なんて言われたら困っちゃうわよね』『子どもの夜ごはんの支度だってあるのに』という反応が返ってくる。そうすると、部長は『残業を頼まれる側の社員もプライベートでさまざまな役割を担っているわけだから、急な残業に対応してもらえることを前提とした働き方は変えていかないといけない』と考えるようになるわけです。つまり、部長という仕事以外の役割を引き受けることで、多様な価値観を学ぶことができるのです」

ほかにも、管理職がMBA取得のためにビジネススクールに通う、子どもの学校でPTA役員を引き受ける、地域の自治会やマンションの理事会の役員を引き受ける、習い事や趣味のサークル活動を始めるといったことも、仕事の場とは違う役割を担うことで多様な価値観を学ぶきっかけになるといいます。

「会社では自分が上の立場で発言することが多い管理職でも、ビジネススクールに入学すると、同級生と同じ学生という立場での発言を求められます。『部長』としての立場で発言するのでは、同級生に相手にされません。部長でなく学生としての役割を引き受けることが大事で、それができれば部長とは異なる価値観を受容することにもつながります。

また、PTAや地域の自治会、趣味のサークル活動などに参加して、さまざまな年齢・境遇の人と話をする。例えば会社で優先されがちな『効率を重視する』という価値観は、数ある価値観の中の一つにすぎず、『回り道をして時間をかけることも大事』といったような別の価値観もある、といった新しい見方を得られることもあるでしょう」

「保育園のお迎えは母親」と思い込まないために

イントラパーソナル・ダイバーシティを重視する背景には、これからの時代の管理職の課題があります。

「自分とは異なる価値観を持つ部下をいかにマネジメントしていくかが、これからの管理職にはますます求められていきます。

働き方改革やダイバーシティが浸透する以前は、長時間労働をよしとする価値観が根付いている会社が多かったため、管理職は自分が入社時から慣れ親しんできた価値観で部下に仕事を割り振り、評価をすることも可能でした。しかし、今は違います。男性社員でも育休を取るのが当たり前になりつつありますし、仕事だけでなく子どものお迎えも大事にしたいという男性社員も多いのです。また、ビジネススクールに通う人もいれば、親の介護と仕事を両立している人もいるように、仕事以外で社員が取り組みたいことや取り組む必要があることが画一的ではありません。これは、管理職にとって、自分の経験や価値観をマネジメントの指標にはできなくなってきている、ということを意味します」

部下が自分とは異なる価値観を持っている場合の対応は、特に気を付けないといけないと言います。

「子育てを妻任せにしてバリバリ働いてきたタイプの管理職男性が、部下の男性が『育休を取りたい』『子どものお迎えのために定時で帰りたい』と言ってきたときに、その部下の価値観やライフスタイルをスムーズに想像して、理解することができるかどうか。

それができないと、『お迎えなら母親が行けばいいのでは?』と自分の価値観を部下に押しつけてしまうわけです。現在の管理職男性の中には、女性が短時間勤務をしてお迎えに行くことは理解できても、男性が定時上がりでお迎えに行くことには難色を示す人が少なくありません。『男性なのに定時で帰るなんて、仕事へのやる気がない』と自分の価値観で部下を評価してしまうのは、一種のハラスメントにも当たります」

ハラスメントを防ぐためにも、「管理職自らが多様な居場所に身を置き、多様な役割を担い、さまざまな価値観に触れることで、個人『内』の多様性を実現するイントラパーソナル・ダイバーシティが大事になる」と佐藤さんは強調します。

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会社以外での役割を担う経験がマネジメントでもプラス