伝えたい価値を見つめ直せ ブランドの危うさ知る2冊【新任社長の苦悩】編 (2) ブランド談義で役員会が迷走 どうする?

写真はイメージ=PIXTA

トップがきちんと把握しておくべきマネジメントの基本とは何か。目の前の問題解決で実績をあげ、社長に上り詰めたとき、ふと不安がよぎったり自信が持てなくなったりする瞬間が訪れるかもしれない。社長の悩みに寄り添ってきた気鋭のコンサルタントが意思決定のよりどころになる経営書を紹介する。

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「社長、細かい業務の改善では現場が前向きになれません、それよりもブランドを生かして付加価値の高いビジネスに進出しましょう」

「いや、その前に海外でのプレゼンスをあげるためにブランドの構築を」

自分たちの不都合なことにも向き合う着実な戦略を議論しようとすると、役員たちの意見は新規事業、ブランド、高付加価値といった言葉に流れていきがちだ。自分の領域から目をそらさせたい気持ちや、成長が期待できる新しいポストを作りたい気持ちもあるであろう。そして社長も含めた会議の参加者の「もっと楽に稼げる方法があるのではないか」という淡い期待も見え隠れする。

自分たちは顧客から評価されているはず。それをブランドとして確立すれば、もしかしたら、もうかる新しい領域に行けるかもしれない。と、ぼんやりと期待を抱き、アップルやナイキになれるのではないかと夢を見る。

実態が見えない「ブランド」という概念を都合のいいように変えられる期待を抱くが、実のところ何をすればいいのかはよくわからず、会議は具体策が見えずに終わっていく。

製造から販売まで一貫したメッセージが大事

そんなあなたにはナンシー・ケーンの『ザ・ブランド』(樫村志保訳、翔泳社)をおすすめしたい。本書によるとブランド管理などの言葉がでてきたのは20世紀中ごろのことだそうだが、本書はウェッジウッド、ハインツといった18世紀、19世紀を起源とする企業から分析をはじめている。筆者が思うに歴史を見ることで浮き出てくるのは、有言実行の重要性だ。顧客に見せたい自分の商品・サービスの良さを、実際に提供できることがブランド構築の肝であることが見えてくる。

本書にあるハインツの例が分かりやすい。ハインツは、ホースラディッシュやピクルスなどをビンに詰めて売っていた。19世紀当時の米国は、自宅で女性が食品を作るのが主で、店で買おうとすると粗悪品も多かった。ハインツは清潔で味も良い加工食品は女性の労働を減らすことができるので、きっと売れるはずだと思い食品事業を始める。当時の加工食品は混ぜ物が入っているという疑念が持たれていたが、そうしたことをせずに安全な食品を作り続けた。質もさることながら、製造期間を短くする新しい缶詰技術が開発されれば、それを利用し製造規模を拡大した。

よい商品を多くの人に届けられる体制を整えながら、ハインツはあらゆる手段で自社の品質の良さを顧客に伝えようとした。どんどん伸びていった鉄道に乗り営業をし、安全性をアピールするために自社製品の瓶は透明にし中身を見せた。消費者が製造会社を認知して購入することがまだ一般的でない時代であったが、商品にいかりのマークをつけ、ハインツの商品は清潔でおいしいという認知を広めた。セールスマンに小売りの陳列を手伝わさせて小売りに商品の売り方を伝授し、一般向けに工場の見学ツアーを行い、政府が安全性のために加工食品に規制を設けることも支持した。製品を伝えるために販促・広報活動を、愚直にやっていったのだ。

筆者はこの事例が、ブランドを作るための有言実行のよい例だと考える。いい商品だからこそ、商品や製造プロセスを見せられる。つまり説得力があるのだ。

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