出生時の性別と自らが認める性別が異なるトランスジェンダーにとって、自分らしいキャリアを選ぶのは試練の道だ。トランスジェンダーは人口の1%未満といわれており、社会生活を送る中での苦労は十分に知られていない。進学や就職などの転機に「本当の自分」を曲げず、キャリアを開いてきたトランス女性に聞いた。
大学制度の要件厳しく 性別変更も心配
大学2年生の堀合愛梨沙さん(19)は進学を機に生まれ育った東京を離れた。「学業も生活も、自分で何をするか決められることがうれしい」と話す。中高生時代は学校制服をはじめ、性別で分けられる場面が多くやりづらさを感じていた。大学院への進学を視野に入れており、「ジェンダーとコミュニケーションを研究したい」と話す。
大学では通称名を使用したかったがかなわなかった。大学が求める「性同一性障害」の診断書2通はすぐに満たせる要件でなかったためだ。十分な理解と治療の経験が必要で、診断できる医師は簡単には見つからない。
堀合さんは診断書1通をもって家庭裁判所に戸籍名の変更を申し立て、今年春に許可された。「大変な労力がかかった。学校や職場で通称名を使用できる制度は必要。制度利用に必要な要件が妥当かなど見直してほしい」と話す。

LGBTQ(性的少数者)の中で「T」にあたるトランスジェンダーは、心の性別と出生時の性別が一致しないため性別を巡る困難が多い。

堀合さんは性別変更を希望しており、要件を満たすには性別適合手術を受ける必要がある。入院と退院後の休養に1カ月間程度要する上、経過が悪ければ再手術を受ける可能性もある。そのため「就職活動は難航するだろう」と感じているという。
「特別休暇などを導入している企業はごく少ない。性別適合手術を受けたいと伝えると採用に不利に働くのでは」と懸念する。
トイレ利用に困難 対応企業少なく
厚生労働省は2019年度、従業員50人以上の企業に対して性的指向や性自認に配慮した取り組みを調査した。有効回答を得た2388社のうち「実施している」と答えたのは10.1%にとどまった。実施する取り組みとして「従業員向けの研修」(41.3%)が多かったものの、「通称名使用を認める」や「自認する性別のトイレ利用を認める」などトランスジェンダーが必要とする取り組みを実施する企業は少なかった。
産婦人科医で当事者から相談を受ける「レインボーカフェ in 岸和田」理事の藤田圭以子さんは「何を実行するかの議論が先行しがちで、その前段階の当事者を知ることをおろそかにしている」と指摘する。