2022/11/15

「男女別トイレしかないと人が少ない時間帯にトイレに行く必要がある」、「履歴書に性別記載欄があり就職活動に困難を覚えた」――。飲食店経営の河上りささん(39)が製作に参加した冊子「トランスジェンダーのリアル」には、様々な当事者の声と学校や職場における課題がまとめられている。

河上さんが積極的に情報発信するようになったのは、トランス女性の友人がSNSに投稿した、男女どちらのトイレを利用するかの話題が炎上してからだ。河上さんのSNSアカウントにも攻撃的な返信が届き、「当事者を知らないから不安や恐怖を感じて攻撃的な言葉を向けているのだ」と分かったという。当事者へのインタビュー動画などを投稿し、当事者を知って身近に感じてもらうための活動を続けている。

「次世代に体験伝えたい」 ゴールが明確に

俳優や講師として活動する西原さつきさん

モデルで俳優の西原さつきさん(36)は発声方法やポージングなどを指導する「乙女塾」を30歳で設立した。トランスジェンダーが登場する映画やドラマの演技指導などを手掛けている。西原さんが「性同一性障害」について知識を得たのは、中学生時代に見たドラマだった。「エンターテインメントに落とし込むと、知識も興味もなかった人たちにもメッセージを届けられる」と確信したという。

自身が創立した「乙女塾」の缶バッジを手にする西原さつきさん

西原さんは新卒で入社した企業で通称名を使用できない困難に直面したが、転職先は女性として働けるよう柔軟に対応してくれた。性別の悩みを取り除いてもらい、自身のキャリアに向き合うことができた。「トランスジェンダーの子どもたちのための活動をしたい」と退職し、26歳で性別適合手術を受けた。

「乙女塾」では学生服大手の菅公学生服(岡山市)と連携し、全国の中学校・高校を訪問してLGBTQの基礎知識や多様性について講演している。「自身の体験を次世代に伝えることが活動の軸だ」と語る。

■手術要件、諸外国は見直し
日本の性同一性障害特例法は性別変更の要件に生殖腺がないことを定めている。精巣や卵巣を摘出すると、生殖機能を完全に失うだけでなく、性ホルモンを分泌できなくなるため継続的なホルモン療法が必要となる。

スペインは07年に法改正して手術要件をなくした。04年の英国の特例法も手術を求めないが、スコットランド自治政府は当事者の負担を考慮して性別変更の手続きを簡素化する改正法案を議会に提出して審議にかけている。

日本では手術要件を見直す法改正の動きはまだない。性別変更が容易でないことを踏まえて、当事者から就学上・就業上の配慮を求められたら実施可能か検討してほしい。
(鈴木菜月)

[日本経済新聞朝刊2022年11月7日付]