認定NPO法人フローレンス 駒崎弘樹代表理事「政策立案の多元化が起こる」

訪問型病児保育などの子育て事業を手掛けながら政策立案にかかわり、その経緯を著書「政策起業家」にまとめた認定NPO法人フローレンスの駒崎弘樹代表理事に聞きました。

――国の政策を自治体を介さずにNPOが実施する仕組みを唱えてきたのはなぜですか。

認定NPO法人フローレンス代表理事 駒崎弘樹氏

「政策のラストワンマイルの問題がある。国が政策メニューをつくっても基礎自治体で止まってしまい、エンドユーザーに届かない問題だ。新しい政策を国が自治体に投げ、自治体が公募で事業者を決めて実施するという仕組みが機能しない。とりわけ、災害時やパンデミック(世界的流行)時はその傾向が強くなる」

「典型的なものに児童虐待の防止などを目的にした支援対象児童見守り強化事業がある。支援ニーズの高い子育て家庭などを見守り、必要な支援につなげる取り組みを強化するため、僕たちが手掛けてきた『こども宅食』を国が政策化してくれた。財源は国が全額負担し、自治体の持ち出しはないにもかかわらず、全基礎自治体の4%しか導入しなかった。理由は自治体がコロナ対策で忙殺され、マンパワーが不足しているためだ。国の新しい政策メニューを自治体が知らないということもある」

「今までの政策は自治体を通す『ファーストトラック』しかなかったため、霞が関がいくらメニューをつくっても自治体が動かないと政策は動かない状況にあった。そこを転換させたいと考え、国が直接、民間団体を募集して自治体を介さなくても政策が届くようにする『政策セカンドトラック』を提案し、今回、政策化された」

「そこでは民間団体は2層構造になる。国から補助金を受ける中間的なNPOがあり、そこが各地の民間団体に助成して宅食などの事業を実施する。中間的な組織は自治体のような役割を担う。福祉サービスの多くは基本的に自治体を通すファーストトラックだが、ほぼすべてでセカンドトラックを導入しうると思う」

――自治体は人手不足でもあり、セカンドトラックは広がりそうですか。

「自治体のマンパワー不足は以前から言われていたが、コロナで顕在化した。今後、その傾向は強まり、役所に人がいないため支援が届かないという状況はなかなか解消されない。自治体だけで担うのは難しいという前提に立ち、使えるリソースはどれも使って、困っている人を助けていくようにしないと、行政は回らないのではないか」

――セカンドトラックはNPOだけでなく、一般企業も担うようになりますか。

「学習支援の分野では、家庭教師のトライグループが行政から助成を受けて無料塾を運営している。一方で株式会社の資本の論理と、支援を届けていく政策の論理はしばしば摩擦を起こす。例えば、売り上げは補助金なので、質の低い授業をしても利益に関係ない。むしろ人手をかけない方がもうかる構造だ」

「市場原理が働かない分野に市場の論理が持ち込まれると、エンドユーザーが困ってしまう。セカンドトラックの中間組織がNPOや社会福祉協議会などからスタートしているのもこのためだ。営利企業が福祉の担い手になってくれるとするなら、しっかりチェックする仕組みをつくっていかなければいけない」

「僕が構想しているのは、介護保険や障害者福祉のように、虐待予防もサービス制度にしていくことだ。フローレンスの『こども家庭庁八策』という提言に入れているように、虐待を未然に防ぐため全国のリスク家庭に届けることが必要だが、ほとんどできていない」

介護保険制度は開始から20年余り、要介護認定者は600万人超、介護給付費は11兆円を超える

「大きな要因は、虐待予防には補助事業しかなく、サービス制度が存在しないためだ。補助事業は国の補助金を受けて自治体が主体になって行う。手を挙げた自治体だけで実施し、原則単年度の事業だ。こども宅食のほか、保育の一時預かりなどが補助事業として行われている」

「一方、介護保険や障害者福祉のようなサービス制度は、サービスを必要とする人を社会全体で支えるために国がつくる制度だ。制度運営は法令で定め、全国的、かつ永続的にサービスを提供できる。一回の訪問などサービスに応じて点数と報酬が定められている。国が公定価格を決め、事業者は全国どこでもサービスを長期的に提供できる。これが虐待予防にも必要ではないかという提案だ」

――虐待予防のサービスを必要としている人は多いということですか。

「孤独な子育てで困っている人はたくさんいる。その人たちに対して、子育てケアマネジャーのような人が『双子を抱えて大変だから一時保育を入れましょう』と助言し、サービスを頼めるようにする。居宅訪問を一回すれば何点で報酬がいくらという公定価格を決めれば、サービスを提供したいという事業者がこぞって現れる。今はサービスを提供できるのは補助事業の委託を受けた事業者だけだ。サービス供給量は絶対的に不足し、手を挙げない自治体ではサービスをできないという問題がある。介護保険の虐待予防版をつくるべきだというのが我々の主張だ」

「ただ難しい面もある。介護保険サービスや障害福祉サービスは比較的、サービスが明確で市場原理が働きやすい。介護なら老人ホームに入りたい、グループホームを使いたい、とニーズがはっきりしている。この点で虐待予防は難しい。『何に困っているのかわからないけれども、とにかく困っている』という人と相談しながら、少しずつ何に困っているのか自分で気づいてもらい、サービスにつなげていく必要がある。可視化、数値化がしづらく、市場になじみにくい点は工夫が必要だ」

「まずは『こども家庭庁』を良きものをしていく。良きものになったこども家庭庁で虐待の問題に本格的に取り組んでもらう形にしていくことが大事だ。いろいろ提案している」

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