新たな官民連携「GaaS」 政策実行の主体が多様に

新型コロナウイルス下で国や自治体の行政が逼迫しています。人口減少や財政難でコロナ前から人員を抑えてきたこともあり、民間のNPO法人や企業が肩代わりする場面が増えてきました。これまで自治体が担っていた政策を実行する主体が多様になり、官民連携の幅が広がっています。

ガバメント・アズ・ア・サービス(GaaS、ガース)という言葉があります。必要なときに必要な行政サービスを提供するデジタル政府を指すことが多いようですが、総務相を務めた増田寛也東大客員教授は別の意味を持たせます。

その時に最適な交通機関を使うMaaS(マース)に倣い、行政サービスによって国や自治体、NPO、企業のうち最適な主体が実行するという考え方です。自治体しか担えない分野もありますが、審査などで公共性を担保できれば、実施主体にこだわらなくてもよい施策もあるでしょう。

例えば、ひとり親の子どもに食事を提供する事業。コロナ下で虐待が増え、子どもを見守る役割も担います。スタッフの人件費や食材購入費などを国が全額負担するのに、手を挙げた市町村は1割もありません。コロナ対応で手いっぱいのところが多いためです。

この事業を手掛ける認定NPO法人フローレンスは、市町村を介さずに国が直接、NPOに予算を渡す仕組みを国に提案し、認められました。駒崎弘樹代表理事は「政策のラストワンマイル問題がある。国が政策メニューをつくっても基礎自治体で止まってしまい、エンドユーザーに届かない」と指摘します。

福祉サービスでは困っている人ほど支援策を知らないことがあり、最近は「誰一人取り残さない」と行政の側から寄り添おうとしています。ただ行政は中立・公平が原則です。満遍なく行う制度設計は得意ですが、特定の個人に適した形で接するのは苦手です。

こども宅食事業について記者会見するフローレンスの駒崎代表理事㊨(1月、都内)

その点、民間は身近なアプリを活用するなど、支援が必要な人にそれぞれ合った形で手を差し伸べています。行政が制度の基盤となるプラットフォームをつくり、民間が個別最適化を担うという役割分担が、デジタル時代の行政サービスに適しているようです。

国と自治体の役割も変わります。対人サービスなどの現物給付は地域の事情があり、自治体が担うのが効率的ですが、10万円給付金のような現金給付では、配るのは国でも自治体でもいいはずです。国は近く口座の登録制度を始めます。国が配る仕組みが整えば、現金給付の時期に地域差はなくなるでしょう。

岸田政権の10万円給付は現金かクーポン券かでも紛糾した(群馬県高崎市のクーポン券)

行政サービスをデジタルに適した形にするため、官民連携や国と自治体の役割分担をどうすべきか、政府は様々な会議で議論を進めています。大切なのは使う人の声です。デジタル庁などに窓口がありますので、よいアイデアがあれば伝えてみてはどうでしょうか。

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認定NPO法人フローレンス 駒崎弘樹代表理事「政策立