養命酒製造のマーケティング部商品企画開発グループの加藤参チームリーダー

「不変×可変」の掛け算

踏み込んだマーケティングが支持されているが、「軸をぶれさせないことは常に頭にある」と加藤氏は医薬品ブランドのスタンスを守る。マーケティングの力は借りながらも、14種類の生薬成分といった、背骨の部分では秘伝の製法をしっかり受け継いでいる。14種類すべての詳しい説明をホームページに載せて、製造工程や飲み方、効能に関しても丁寧に説明。長く続けてもらうことが前提の商品特性を持つだけに、「信頼感を保つ取り組みは欠かせない」(加藤氏)。

新型コロナウイルス禍を受けて、多くの商品が売り上げを減らす中にあって、「薬用養命酒」は「前年並みを維持している」(加藤氏)。感染症対策を意識して、免疫力を高めたり、体温を上げたりするニーズが強まったこともあってか、「新たに飲み始める人が増える傾向にある」という。生活習慣を整えて、体調を維持するという健康観が広まってきたことも、「薬用養命酒のありようとマッチする」(加藤氏)。

購入者の構成は男女が半々程度だ。天然素材への関心が高まったことも手伝って、「ハーブを生活に取り入れる女性が増えてきた」(加藤氏)。体質改善を進めるうえで、漢方薬を試す人が珍しくなくなったことから、漢方薬の原料となっている生薬が主成分の「薬用養命酒」にも目を向ける人が増えてきたという。「生活のリズムを保つうえで、1日3回というサイクルが見直されたところもある」(加藤氏)

ロングセラーならではの目配りを、鳥山氏は「変えすぎないことが肝心」と語る。2017年にはパッケージデザインを変えたが、パッと見ただけでは、あまり変化に気づきにくい。実際にはパッケージのキーカラーである赤の色味を変えている。文字の色を黒から白に変更し、読み間違えにくい書体を用いた。

しかし、デザイン細部のブラッシュアップ程度であり、「大きくは変えなかった」。長年の購入者からの期待を裏切らないことは、暮らしに寄り添う存在として重要だと考えたからだ。一方、注ぎ口には液だれを防ぐ中栓を加え、使いやすい形に変えた。

服用にあたっての安心感を高めることにつながる、念入りな情報提供は公式ホームページの厚みからもうかがえる。多くの人が疑問に感じやすい「なぜ生薬を酒に浸すのか」といった点に関して、説明を惜しんでいない。生薬の粉末をそのまま飲んでも、体内にうまく吸収されない成分がある。しかし、酒に浸せば、成分を引き出しやすい。欧州のベルモットのように、同様の原理を使った薬酒は例が多い。

コロナ禍は自ら薬を用いて健康管理に役立てる「セルフメディケーション」の意識を広めた。免疫力を維持しようと、生活サイクルやストレスマネジメントに気を配る人も増えつつある。大きな病には至っていないが、将来の危険をはらむ「未病」を深刻化させないうえで、「自らの治癒力を引き出す東洋医学の知見は貴重」と、加藤氏は言う。

ゴルゴ13や「ビンくん」を活用したマーケティングは、源流までさかのぼれば約400年という超ロングセラーに、新たな買い手を呼び込んだ。ヒットの方程式は、配合や製法といった根っこは変えず、消費者との接点を時代に合わせて磨き直すという「不変×可変」の掛け算だった。後編では「薬用養命酒」に続く、次の看板商品づくりに取り組む「100年企業」の姿を追う。