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薬用養命酒には14種類の生薬が溶け込んでいる

薬用養命酒には14種類の生薬が溶け込んでいる

すご腕スナイパー(狙撃手)のゴルゴ13にたびたび仕事を依頼した企業が薬酒メーカー国内最大手の養命酒製造だ。といっても、狙撃ではなく、広告・宣伝の話。毎日、少量ずつ飲む薬酒という、堅実なイメージの主力商品で知られるが、マーケティング手法は逆に大胆。2013~15年に展開した、さいとう・たかを氏作の劇画「ゴルゴ13」絡みのプロモーションを成功させ、その後もSNS(交流サイト)でバズる企画を打ち続けている。本格的な事業化からもうじき100年を迎える老舗らしからぬ仕掛けには、納得の事情とおおらかな戦略があった。

看板商品の「薬用養命酒」は薬酒の分野で抜群の知名度を持つ。真っ赤なパッケージと黒いボトルも思い浮かびやすい。第2類医薬品の「薬」であり、エナジードリンクやサプリメントとは別物。1日に3回、1回あたり20ミリリットルずつを飲む。生薬の成分を、薬酒の形で体に取り入れていくので、「生活になじませながら、じっくりと付き合っていくタイプの商品」と、マーケティング部商品企画開発グループの加藤参チームリーダーは説明する。

そんな堅実な性質の商品に、なぜキャッチーな広告が企画されたのか。背景にあるのは、1990年代以降の規制緩和だ。いわゆるサプリメントの市場が広がり、ドラッグストアも増えた。医薬品や健康食品を取り巻く環境が様変わりし、消費者の選択肢が格段に広がった。環境の変化を受けて、「積極的に商品価値を押し出すマーケティング戦略を取り入れる必要性が高まっていった」と、マーケティング部コミュニケーションマーケティンググループの鳥山敦志グループリーダーは振り返る。

1925年に全国販売を始めた、100年近いロングセラーだけに、90年代には顧客層の年齢も上がっていた。祖父母世代が飲んでいた家庭では「昔ながらの商品といったイメージもあったようだ」(鳥山氏)。飲むタイミングや分量が決まっている点のとっつきにくさもあり、継続的な購入者は60歳超の年配層が増えていった。こういった複合的な状況の中、インターネット広告が広がり、「従来とは異なる見せ方でのプロモーションに取り組みやすくなった」(鳥山氏)。

それにしてもゴルゴ13はれっきとした犯罪者で殺し屋だ。3年間にもわたる大型の「依頼」に、命を守る側の企業としてためらいがなかったはずはないが、結果的には一連のプロモーションはネットユーザーに大受けだった。手堅い老舗イメージと冷酷なゴルゴ13とのずれ加減がヒットの一因となったようだ。

ゴルゴ13からの質問に答え、疲労度や体質を判定してもらえるといった企画には、新たな顧客として期待していた30~40代からも反応があったという。13個限定のオリジナルアタッシェケースも用意された。当時は「おしかりを受けるかもしれないけれど、許容範囲を見定めながらやってみよう」という雰囲気だったそうだ。

思い切った広告戦略には前例があった。もともと「薬用養命酒」は江戸時代までさかのぼる歴史がある。1602年に長野県で創業家の塩沢家が創製し、1923年に前身企業が事業を受け継いだ。25年に東京へ進出したが、当初は「全く売れなかった」(鳥山氏)。知名度が信州エリアにとどまっていたのだ。

広告の大切さを感じた経営者は新聞や雑誌で広告を打ち続けた。新たな広告メディアが登場するたびに、広告利用を試みた。バスが街を走るようになったら、バスの車体を使った宣伝を始め、戦後は民間ラジオ放送が始まればラジオでもCMソング「養命酒一杯の歌」を流した。子供向けの漫画雑誌が創刊されると、漫画形式の広告も載せた。ゴルゴ13と組む下地は、ずっと昔からあったわけだ。

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