ぜいたくな気分と食の楽しさ味わう
「関西と関東とでは客の好みが違う」と関さんは指摘する。大阪の本店や茶屋町店ではあっさりとした素材が好まれるのに対し、東京店ではあなごやシバエビなど香りの強いものが人気という。食に関する地域性はあるものの、安易に迎合することなく、東京にあっても本店の味の継承に関さんはこだわる。香ばしいごま油で揚げる関東風の天ぷらと違って、一宝のそれは紅花油を用い、天つゆも厳選した水にかつおと昆布をたっぷりと使う。関東風の甘辛さはなく、関西風の天つゆは「ごくりと飲めてしまうほど」(関さん)。

衣も卵の卵黄だけを用い、あとは粉と水で溶き、180度前後に熱した油でさっと揚げて出す。鍋に具材を入れると、いったんは油の温度が下がるが、再び温度を上げ、しっかりと食材のうま味を凝縮させるのがミソ。油の泡の大きさやはじける音など「五感を駆使した」温度管理は、まさに熟達した職人のなせる技だ。
関東風の天ぷらは衣が黄金色だが、一宝のそれは白っぽい。油を感じさせず、サクサクと口当たりも軽いため、何品でも口にできてしまう。それでいて胃もたれしないのが関西風天ぷらの最大の持ち味、と関さんは胸をはる。言われてみると、店内に天ぷら屋特有の油のにおいも感じない。

関西風天ぷらの流儀もさることながら、用いる食材にも最大限気を配る。時折、関さん自らも市場まで足を運び、市場関係者との情報交換にも余念がない。これからの季節はアスパラガスやトウモロコシ、稚アユなどが旬で、おいしくなるという。
天ぷらに合わせる酒のラインアップも充実している。ビールはもちろん、日本酒や焼酎の種類や銘柄も多い。銀座という場所にありながら、ワインの価格も良心的なのはありがたい。相席となるカウンターテーブル(18席)やテーブル席(8席)のほか、掘りごたつを備えたものなど個室も4室ある。掘りごたつ個室利用の場合はまず、座敷で懐石料理を味わった後、続きの間で揚げたての天ぷらを楽しむという趣向だ。
接待はもちろん、家族でのひとときを楽しむ際もいい。いつもとは違うぜいたくな気分と食の楽しさが味わえるはずだ。
(堀威彦)