日経クロストレンド

「力業」で開発した色ちょうせい機能

ぷよぷよシリーズの開発陣も、早い段階から色覚多様性の状況を把握しており、カラーユニバーサル対応などを行っていた。「06年発売の『ぷよぷよ!』以降は、ゲーム内にぷよの形状を変更できる機能を実装した。色の違いが分からない人には形で判別してもらおうという狙いだ。本格的に色覚多様性への対応を行ったのは20年発売の『SEGA AGESぷよぷよ通』で、ぷよのカラーを個別に選択できる機能を入れた。しかし、こうした施策がどれほど当事者に届いているかは分からない状態だった」(セガのゲームコンテンツ&サービス事業本部ぷよぷよシリーズアートディレクター、デザイン監修の三瓶映氏)

より本格的に色覚多様性に向けた調整を始めたきっかけは、19年に開催された「いきいき茨城ゆめ国体2019」だった。「国体の文化プログラムとして初めてeスポーツが採用され、その中の3タイトルの1つに、ぷよぷよeスポーツが選ばれた。この大会以降、障がいのある方を支援している人や施設などから、『障がいのある人も大会に参加できたら……』と意見をもらう機会が増えた」(セガのジャパンアジアパブリッシング事業部eスポーツ推進室・五十嵐勝室長)

また、このタイミングでアップデートができた理由には、ハードウエアの進化もあった。「ぷよぷよはマルチ展開を前提としたタイトルで、ぷよぷよeスポーツも『Nintendo Switch』『PS4』『Steam(PC)』の3つで展開している。これまでのマルチプラットフォーム展開では、ハードの性能などに差があり、各特性に合わせてソフトを開発する必要があった。そのため、色覚多様性に対応したアップデートを入れるのが困難だった。しかしすべてのハードのスペックが進化し、ほぼ同じことができるようになってきたので、今回の施策に踏み切れた」(セガのゲームコンテンツ&サービス事業本部「ぷよぷよeスポーツ」ディレクターの中島玄雅氏)

こうした経緯で実装した色ちょうせい機能だが、開発はかなりの「力業」だったという。色覚多様性に対応した絵づくりをするに当たって、明確なガイドラインなどは存在しない。色覚多様性といっても見え方には個人差があるため、「この色なら絶対に見える」と断言できないのだ。色覚多様性の人の見え方を模擬体験できる液晶モニターや眼鏡を使用してゲーム画面を作っていった。しかし開発者たちには「本当にこれで見えるのか」がどうしても分からなかったという。そこで、NPO法人カラーユニバーサルデザイン機構(CUDO)と協力し、色覚多様性の人に実際にゲームをしてもらいながら色の調整を行った。

「色覚多様性の方のプレーを通して気づいたこともたくさんあった。例えば、ぷよは消える瞬間にチカチカと『点滅』するのだが、色覚多様性の人にはぷよが点滅した瞬間に見えにくくなってしまうようだった。色だけではなく、表現による見えにくさもあるのだと分かった」(三瓶氏)。実際に隣に座って、「この表現は見える?」など細かく確認しながら調整を進めていったという。

「開発陣からすると『やりすぎ』と感じるほどの調整でも、色覚多様性の人にはまだ足りないこともあり、彼らの生の声を聞きながら色を調節できたのは本当に大きかった」(中島氏)

色の違いが分かりにくい人は形状で判断できるようにと、ぷよの形状を変更する機能も実装した