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キャリアプランに悩む人の多くは、壁にぶつかってからようやく対策を考え始めています。一生涯のキャリア計画をつくるには、不測のアクシデントが起こってから考えていては間に合いません。40代、50代、60代と年齢が高くなればなるほど、リスクは大きくなり、危機対策も難しくなっていきます。特に第2、第3のキャリアを含む40代以降の人生設計は39歳までに備えておきたいところです。では具体的にどう準備をすればいいのか?今回は生涯キャリア計画の立案方法について考えていきたいと思います。

キャリアの前半は「いかだ下り」後半は「山登り」

リクルートワークス研究所の設立以来、1999年~2020年まで所長を務めた大久保幸夫氏は、2002年に出版した『日本型キャリアデザインの方法』の中で、キャリア形成についてリアリティーのある提案を行っています。

就職して間もない20代は、仕事の中で初めて経験することが多く、変化にも富んでいるため、キャリア形成は「いかだ下り」に似ている。この時期に中長期のゴールを計画しても無意味で、激流をいかだで下り、流れにもまれるように仕事に打ち込み、経験を積むことによって職業人としての基礎能力が高まっていく時期だ、と説いています。

しかし急な崖に挟まれた激流に始まったいかだ下りも、時間がたつにしたがって次第に川幅が広がって岸壁に激突する危険は少なくなり、視界も広がってくる。入社後10年から20年経過すると、職業キャリアは後半期を迎える。

このキャリア後半期には、「何が得意か」「何をやっているときに意味を感じ社会に役立っていると実感できるか?」「何がやりたいか」という3つの問いを満たす山を決め、プロフェッショナルをめざして「山登り」をしていくことを提案しています。

多くの方のキャリア相談を経験してきた私自身の視点で考えても、20代、30代前半をいかだ下りをしながら経験を積み上げ、35歳から39歳までを「山決め」の時期と置いてテーマを決めることは妥当だと感じます。「自分はこの道のプロで生きていく」という専門性を40歳くらいまでに腹決めできれば理想的ですね。

生涯キャリアを考える3つの観点

経験を積んで、視界を広げ、人生後半のキャリアについて意思決定する際に、皆さまに役立つ可能性がある3つの観点をご紹介しておきたいと思います。

自分らしいキャリアづくりを(写真はPIXTA)

自分らしいキャリアづくりを(写真はPIXTA)

①自分の経験した業界や職種は全体のごく一部。労働市場全体を「見渡す」

経験を積むことは貴重な知識・スキルを生み出しますが、一方で自分一人が経験できることには時間的にも物理的にも限界があります。業種だけでも200種類、職種にすると500種類、ましてや2名以上の法人は170万社あると言われています。自分が経験して知っていることは、世の中に存在する仕事全体の中のごく一部分でしかないことを認識しておく必要はあります。

もしかしたら、自分が経験したことがない業界や職種の中にも、自分の天職と言える仕事が潜んでいるかもしれない。そんな視点を持って、業界や仕事を見渡し、研究することも重要です。ちなみに、経験したことがない業界や職種に転職する人は、全転職者の半数近くいるということも覚えておいていただけたらと思います。

②過去から現在の変化をもとに未来を「見通す」

生涯のキャリアを考えるには、自分の残りの仕事人生の時間をもとに、中長期でキャリアを逆算して計画を練る必要があります。その際に特に重要なのが、自分が働き続けたい期間に、世の中がどれだけ変化していくかをうまく織り込む工夫です。特に、業界や職種の栄枯盛衰がスピードを増している中、自分が今いる業界や仕事は、今後、右肩上がりに成長していくのか? 逆に、徐々に勢いを失って衰退していくのか? 5年、10年、15年というスパンで、自分なりに見立てておく必要があります。

多少、右肩下がりでも、少なくとも自分が働いている間は、まだ世の中に必要とされているであろう、と思われる業界・仕事であったとしても、そのカテゴリーの中で企業として生き残れないのであれば、やはり転職は必要になってきます。

「楽観シナリオを描いていたら悲観的現実が来てしまった」ということでは逃げ場を失いかねないので、「悲観シナリオを描いて備えながら、楽観的な現実が来たらラッキーだった」となることを願って、備えだけはしておきたいものです。

40歳前後になって、経験のない業界や仕事に転職することは心理的に負担が大きいかもしれません。社会人としての経験や知識も蓄積されているので、どうしてもこれまでのキャリアを生かしていきたいという気持ちが日に日に強くなる側面もあると思います。今さら別の業界に行っても、つぶしが効かないんじゃないかと考えて、結果的に「同業会・同職種」が暗黙の前提になってしまっている人が多いことも確かです。しかし、これが最大の落とし穴で、自らの可能性を必要以上に狭めてしまうことになりかねません。

転職者の約半数は異業種・異職種に挑戦していますし、転職後の満足度は、同業種・同職種に転職した人と、ほとんど変わらないので安心してください。

③自分が大切にしたい価値を軸に、勝ち筋を「見立てる」

中長期のキャリアを充実させるためには、単純に「年収が上がる」「役職に就く」などの表層的なモノサシだけでなく、自分が社会人人生を賭けて手に入れたいものを定め、それを実現できる戦略が必要です。まずは、自分がなんのために働くのか? という「働く目的」を定義して、次にいかにそれを実現していくのかの戦略(作戦)を立てるという手順で、プランニングしてみてください。

自分らしいキャリアを歩むためには、自分が何を大事にし、何を大事にしないかを知る必要があります。その価値観を確かめるために活用できる観点のひとつに、米マサチューセッツ工科大学(MIT)のエドガー・H・シャイン氏が提唱した「キャリア・アンカー」という考え方があります。

アンカーとは「錨(いかり)」の意味ですが、キャリア・アンカーは自分自身が大事に思っている価値観であり、一人一人のキャリアのよりどころを意味します。

シャイン氏は、自分自身のキャリア・アンカーを知るためには「3つの問い」の答えを考えることを推奨しています。

【シャイン氏の3つの問い】
①自分は何が得意か? 逆に不得意なことは何か?
②自分はいったい何をやりたいのか? やりたくないことは何か?
③どのようなことをやっている自分なら、社会に役立っていると実感できるのか? 逆に価値を見いだせないことは何か?

これらの3つの問いは、「能力」「欲求」「価値」についての自己イメージを表すものになるという考え方です。

「能力」とは、例えばコミュニケーション力や目標達成意欲といったヒューマンスキルもあれば、業務上の専門スキルやプログラミングなどのテクニカルスキルもあります。

「欲求」とは、自分の感情が盛り上がる起爆剤となるものです。こんなことをしている時に喜びを感じた、うれしかった、など、高揚感を感じたエピソードを思い出してみてください。

「価値」とは、簡単に言うと、自分自身がどんな仕事や成果に意味を見いだすのか、ということです。働くということの意味である「やりがい」を超えて、「生きがい」と呼べるものでもいいかもしれません。自分なりに、自分の価値観の源泉を言葉にしてみることが重要です。

「能力」「欲求」「価値」という3つのモノサシは、キャリアの判断に大きな影響を及ぼします。大事なことは、自分がどのような「能力」「欲求」「価値」を持っていて、どのような優先順位でそれを認識しているかを自己発見することです。

「目先の年収」より重要なことは「稼ぎ続けられるチカラ」

キャリアを考える上で、雇用条件、とりわけ年収は重要な要素です。しかし、「目先の年収にとらわれ過ぎない」こともそれ以上に重要です。

年収は、会社や業界の規模や成長力などによって左右される側面が大きいものです。

上記したように、それがゆえにキャリアを考える上で、業界や仕事の価値の未来を予測することは不可欠なのですが、"どのハコを選ぶか"的な視点だけでなく、個としての戦闘能力を高めることを意識しておく視点も必要不可欠です。

稼げる場所を選ぶだけではなく、「稼ぐチカラ」を身に付けていくことで、先々まで環境に左右されずに済む状態をつくりだすと言うことです。

転職の経験がない人ほど、キャリアを考えることに構えてしまいがちになります。誰かに相談すると、「あなたは何がやりたいのか?」と聞かれるので、希望する業界や職種を決めておかなければいけない、と勘違いする人もいます。

一番大切なことは、あくまでも「自分がいきいきと働ける状態」を末永く手に入れることです。決して無理せず、自分らしさを大切にして、納得できる選択肢を探していただければと思います。

この連載企画で、私が執筆させていただくのは、今回が最終回となりますが、今後も皆さんのキャリアづくりを応援しております。よろしければ、いつでも相談相手をさせていただきますのでお声がけください。

6年間の長きにわたり本当にありがとうございました。

※「次世代リーダーの転職学」は金曜掲載です。この連載は3人が交代で執筆します。

黒田真行
ルーセントドアーズ代表取締役。日本初の35歳以上専門の転職支援サービス「Career Release40」を運営。2019年、中高年のキャリア相談プラットフォーム「Can Will」開設。著書に『転職に向いている人 転職してはいけない人』、ほか。「Career Release40」http://lucentdoors.co.jp/cr40/

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