リンハム氏らはまた、釣り針当たりの漁獲量は保護区のすぐ外側で最も高く、離れるに従って減っていくことも突き止めた。「これこそまさにスピルオーバー効果といえるでしょう」と付け加えた。
ただし、この地域で漁をする船のうち、ハワイを拠点とする船はおよそ3分の2だ。「漁船は日本、中国、台湾からもやってきますが、それらの漁獲量について詳しいデータは入手できません」とリンハム氏は言う。

懐疑的な見方も
一方で、懐疑的な見方をする専門家もいる。米ワシントン大学の漁業生物学者のレイ・ヒルボーン氏は、保護区の拡大による変化は限られたものであり、マグロが数を回復するにはもっと時間がかかると考えている。さらに、保護区が拡大されたのと同じ頃、西太平洋全域でマグロの数が増えていたとも指摘する。
リンハム氏は、西太平洋全域でのマグロの増加については論文でも考察しており、それでも保護区周辺の漁獲量は増加していると結論づけたと指摘する。
ただし、増加した漁獲量が、保護区の拡大によって漁師が失った漁獲量を補っているかどうかを算出するのは難しく、さらなる分析が必要だとリンハム氏は言う。とはいえ、保護区が制定されるずっと以前からマグロの数は減り続けており、持続可能な状況ではなかった。
いずれにせよ保護区が拡張したことで、マグロの数が回復し、漁が許可されている海域で漁獲量が増え、その内容について詳しくわかったことは「喜ばしいことだ」とリンハム氏は言う。
しかしリンハム氏は、現在行われている延縄漁(はえなわりょう)を持続可能とは考えていない。「漁獲量には制限が設けられていますが、誰も守っていません。米国は毎年制限を超えますが、他の国々(日本、中国、台湾)はなぜか制限に達することなく、漁業をやめることもありません」
「持続可能な漁業を目指すには、各国の漁獲量を今よりも厳しく管理する必要があります」と、リンハム氏は訴える。
「すべての海洋保護区で効果があるとは限らない」

こうした漁獲量の管理は、リンハム氏らのチームが研究で用いたようなデータをもっていない多くの海洋保護区にとって、より重要になると、リンハム氏は言う。「捕まえた魚がどこから来たのか知る必要があるのです」
それはまた、小規模な海洋保護区や部分的な漁業を許可する方法に効果があるのかどうかを見極めるのにも役立つ。
ハワイを拠点に活動するフリードランダー氏は、リンハム氏と同じ考えだ。そして「この論文から、すべての海洋保護区で同様の効果を期待できると結論すべきではない」と注意を促す。効果が現れるには、保護区の規模、設計、位置などが関係するからだ。
リンハム氏は言う。「スピルオーバー効果をねらって設置されたものの、まだ期待した効果が出ていない保護区もあります。私たちの研究は、それが有望であることを示したのです」
(文 Tim Vernimmen、訳 三好由美子、日経ナショナル ジオグラフィック)
[ナショナル ジオグラフィック 日本版サイト 2022年10月24日付]