
北西ハワイ諸島を取り巻く海洋保護区を大幅に拡大したところ、保護区のすぐ外側の海域でマグロの漁獲量が増えたとする研究成果が、2022年10月20日付の学術誌「Science」に発表された。
この海洋保護区は、米パパハナウモクアケア海洋国立モニュメント。2006年に保護区に制定され、2010年には世界遺産にも登録された。段階的に広げてきた保護区の面積は、オバマ元大統領による2016年の拡大によって当初の4倍の約150万平方キロメートルに達した。世界最大級の海洋保護区だ。
保護区内で漁業が禁止されることは漁業者にとって打撃だが、保護区の拡大を支持する人々は、漁業にとってもプラスになると訴えた。保護区が広がることで、この海域で減り続けているマグロの数が回復すれば、スピルオーバー効果で保護区の外にも魚があふれ出て、漁獲量も増えるはずという理屈だ。
もっともマグロの数を直接数えることはできないし、保護区の拡大以外にも様々な理由でマグロは増減するため、話はそう単純ではない。しかし研究チームは今回の論文で、2010年初頭から2019年末までに集められたデータに基づき、保護区のすぐ外側で魚の数が増えていることを示してみせた。
「海洋保護区からのスピルオーバー効果を厳密に調べたもの」だと、ナショナル ジオグラフィック協会の「原始の海」プロジェクトで主任研究員を務めるアラン・フリードランダー氏は言う。「多くの場合、スピルオーバー効果を証明するのは難しいのですが、今回はそれができた数少ない調査の1つです。すばらしいニュースです。他の海洋保護区の評価と発展のために、今後、同じアプローチが使えるでしょう」

増える釣り針の数
米ハワイ大学の環境経済学者で、論文の著者の1人でもあるジョン・リンハム氏によると、特定の漁師による平均漁獲数を見ても、保護区に近い海でのマグロ漁獲が増えているという。つまり、有能な漁師が保護区に近い海で漁をするようになったためではないということだ。
「ハワイを拠点にしている漁船は約150隻で、毎年4000万本から5000万本の釣り針が使用されていますが、漁獲量が増えているため、その本数は増え続けています」
そのため、リンハム氏は今回の研究で釣り針数当たりの漁獲量を調べることにした。漁船や米海洋大気局(NOAA)の海洋生物学者からの報告書を元に、2010年から2019年の漁獲量を算出したところ、釣り針1万本当たりの年間漁獲量は、保護区の拡大以前に比べ、キハダマグロでは平均6匹、メバチマグロでは平均5匹増えていることがわかった。
「特に驚いたのはメバチの数が増えていたことです」とリンハム氏は言う。「キハダに比べ経済的にはるかに重要ですし、これまで数が回復している兆しはありませんでした」