
コロナショックが消費財の世界市場を覆うなか、好調ぶりが際立つのが高級時計の分野だ。大手各社の業績は右肩上がりで、中古品市場では人気モデルの相場が高騰を続けている。そんな空前の時計ブームをブランド各社のトップはどう見ているのか。1回目はA.ランゲ&ゾーネのリージョナルブランドCEO(最高経営責任者)である山崎香織さんに聞く。2019年に着任してまもなく発売したスポーティーモデル「オデュッセウス」が人気を集め、2次流通では3倍超の値が付いた。顧客とのコミュニケーションを密にし、ブランドに関心を寄せる顧客層の広がりを実感しているという。
生産が追いつかない人気 最高峰モデルも即完売
――コロナ下で、今までにないほど多くの消費者が時計を買い求めるようになった理由はどこにあると思いますか。
「時計の売れ行きは本当に伸びています。A.ランゲ&ゾーネ(以下ランゲ)親会社のリシュモンはグローバルの売り上げも利益率も拡大していますが、とりわけ数字がよいのが時計です。国・地域では米国が大躍進、日本も回復しつつあります。コロナショックを経て、人々は自分にとって価値のあるものを今まで以上に吟味して選ぶようになりました。時間の概念はより大切なものとなり、機能性も兼ねた時計の存在が人々の心の中で重みを増したのではないかと考えています。ふと時間を確かめるために目を向けた時計が、美しかったり、好きなものであったりすると、心が豊かになりますから」

――資産価値としてはどうでしょうか。店頭で実機を見られない時計が多くなりました。一方で人気の「オデュッセウス」(366万3000円)は中古品に1000万円の値が付いています。百貨店では高額なモデルから売れていき、リセールバリューで時計を求める人が多いように思えます。
「2年前に発表した『オデュッセウス』はラグジュアリースポーツ時計ブームに乗り、生産数が販売に追いつきません。超高額モデルで即完売するものも多数あります。ですが、日本では投資価値の観点で『今、買っておかないと』と考え、ランゲの時計を買うお客さんはそれほど多いとは感じていません」
「セカンドマーケットが活性化しているのは事実です。リシュモンは中古時計販売の英ウオッチファインダーを傘下に持ち、認定中古車のようにメンテナンスをしっかりした中古時計を、他社の製品も含めて循環させていこうと取り組んでいます。特にアメリカではセカンドマーケットやオークションでの価格上昇が新品の販売に影響するといわれます。リセールバリューは最終的にはお客様が決めることで、リセール価格が上がることはプラスにとらえています。ただし、はじめから転売目的で買われてしまうと、本当にほしい人の手には渡らない。我々が目指しているのは、ほしい人に大事に使ってもらうこと。そこなのです」

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