dressing

2022/4/18
「お椀」の中身はエビしんじょう、トウガン、マイタケなど

エビしんじょうにトウガンとマイタケをあしらった「お椀」。こちらも汁は上品な淡い味付けだが、大ぶりに切ったエビのプリプリした食感と、なめらかなすり身のコントラストが絶妙だ。

椀の蓋(ふた)裏に描かれた蒔絵(まきえ)は、湯気で濡れて桜と花火がいっそう艶やかに輝き、箸を取るのも忘れて見入ってしまうほど。花火に桜とはめずらしい取り合わせだが、聞けば「高橋屋」本店の広大な庭には店を構えた当時から巨木の「百年桜」があり、それにちなんで一年を通じて桜の器を使っているとのこと。

最も驚くのは、3品目の小鉢「黒アワビと野菜の炊き合わせ」。黒アワビの軟らかさ、素材一つひとつの風味の鮮烈さ、そして最後に搾り込んだスダチの香りと酸味……。こんなにさわやかな炊き合わせがあったのか、と衝撃を受ける。

熊本産の黒アワビ、熊本産のツルムラサキ、肉厚で皮が軟らかい赤ナス、フルーツトマトを別々に炊き、炊きあがるタイミングをきっちり合わせて仕上げることで、すべてのうま味が融合してお互いを引き立て合うのだという。

「ウナギは脂が多いので、さわやかな酢の物のような炊き合わせにしています。汁にすべてのうま味と風味が溶け込んでいますので、ぜひ汁まで飲み干してください」という田中さんの言葉どおり、遠慮せずに器に口をつけて、最後の一滴まで味わってほしい。

「奇をてらわず、一つひとつの基本をていねいに。それが『小十』で学んだスタイルです」と田中さん。「小十」では最初の1年間はサービスを担当し、いきなり奥田氏の「カウンター脇」を任された。身近で多くのことを学んだが、フランス店で働き海外の多彩な料理と接する機会を持ったことで、あらためて和食のすばらしさに開眼したと語る。

「うな重」の身がなめらかな秘密は、蒸しあげた後、見えるか見えないかほどの小骨を毛抜きで抜き取っているため

いよいよ、「うな重」の登場。季節の草花が描かれた輪島塗りの重箱、日月紋の廬山人写しの会津塗りの椀も特注品。箸を取る前に思わず、しみじみ見入ってしまう美しさ。

蓋を開けると、ふんわり広がるウナギの香り。ミルで削る香り高いサンショウをかけ、身を持ちあげると、とろけそうな軟らかさが箸から伝わってくる。口に入れるとふわふわで、どこまでもなめらか。「クリーミィ」と表現したくなる。

それもそのはず、「高橋屋」では蒸しあげた後、身の中にひそむ目に見えるか見えないかほどの小骨1本1本を、職人が毛抜きで抜き取っているのだ。

この小骨は細かすぎて生の状態では抜くことができず、火が通って初めて抜くことができる。その数、なんと1串に150本から200本ほどで、熟練の職人が集中しても2分から5分はかかる。四代目の高橋さんが冷めたウナギかば焼きを食べて、小骨の微妙な引っがかりを感じたことがきっかけで始めたという。

「小骨を抜くのは確かに大変ですが、身のなめらかさに歴然とした差が出ます。とくに冷めた時に食べるとその差は大きい。ウナギは冷めた状態で召し上がるお弁当の需要が多いので、手間はかかってもやる意味があると思って始めました」(高橋さん)。採算度外視のこのていねいな仕事により、「高橋屋」のウナギのファンが一気に拡大した。

身はどこまでもクリーミィだが、炭火の上で一瞬も手を止めずに返し続ける「百手返し」で、ウナギ全体が均一な美しい黄金色にふくよかに焼き上がる。焼きがしっかりしているからこそ、身のふわとろ感がより引き立つのだ。

たれはあっさりしていてしつこくない。そして一般的な炭火焼きのウナギだと一瞬あるかなきかに感じるだけの炭の香りが、ふんわり長く余韻として残るのも特徴だ。

この香りにも秘密があり、炭の香りを移すために、真っ赤におこした炭を週に1度くらいの頻度で、たれに入れるそう。このたれを一度味わうと、他の店では炭の香りが弱く、物足りなく感じるだろう。