「やりきった感」に裏付けられた清らかさ

トップレベルのアスリートには、その立場に見合った発言も期待される。競技や大会を進化させるうえで有益な提案や指摘ができるのは、その道を極めた者ならでは。ただ、踏み込んだ発言は時に波風を立てることもあり、発言者には覚悟や勇気も必要だ。

ハーフパイプ男子で金メダルを獲得した平野は記者会見でジャッジに注文をつけた。2本目の得点が不可解なほどに低く抑えられたことには、有力選手から批判が相次いだ。

平野は「今回はどこを見ていたのかという説明を改めて聞くべき」「競技をやっている人たちは命を張ってリスクを背負っている」「もっとしっかり評価するべき」と述べ、採点基準の見直しや明確化を促した。

危険を冒して、最高難度の技を決めても、相応の評価が得られないのでは、リスクテイカーが減り、競技の発展を妨げかねない。まだ歴史の浅いスポーツでは、システム自体が未成熟のケースも珍しくない。金メダリストの直言は重い。名実共に世界のトップとなった者として、ストレートに採点システムに見直しを求めた態度は頼もしく映った。

ビジネスシーンでは既成のしくみが幅をきかせ、「長いものには巻かれろ」的な状況に至ることも珍しくない。最初から落としどころを探して動くケースもある。立場の弱い者は根本的な見取り図の変更を提案しにくいだろう。だから、大胆な発言が許されるリーダーこそ、その権限を生かして、ゼロベースの改善策を提案してほしいものだ。

2大会連続の銀メダルを獲得した、ノルディックスキー複合の渡部暁斗は「山頂にはたどりつけなかったけど、いろんな角度から山を見られていい時間を過ごせたかな」と語った。スピードスケート女子の小平奈緒は北京五輪ではメダルに届かなかったが、自身のインスタグラムに「成し遂げることはできずとも、自分なりにやり遂げることはできた」とつづった。

アスリートの発言が共感を呼ぶ理由の1つを、この渡部と小平の言葉が示している気がする。つまり、自分なりにやり遂げたという感覚だ。その「やりきった感」は大会期間中のパフォーマンスにとどまらず、過去のトレーニングも含むだろう。努力の積み重ねに納得しているからこそ、表現が濁らない。私がアスリートの言葉に魅せられる理由はこの透き通った自己肯定感にあると思う。思惑や打算、忖度(そんたく)などに絡め取られた言葉を多く聞かされる中、それらから縁遠いアスリートの言葉は彼らの熱闘と相まって、一段とピュアに響く。北京五輪は「名言のメダル」が多かったことでも長く記憶に残りそうだ。

梶原しげる
 1950年生まれ。早稲田大学卒業後、文化放送のアナウンサーに。92年からフリー。司会業を中心に活躍中。東京成徳大学客員教授(心理学修士)。「日本語検定」審議委員。著書に「すべらない敬語」「まずは『ドジな話』をしなさい」など。