総合力が試されるデータサイエンティスト

データサイエンティストに求められる能力とは何でしょうか。13年に発足した一般社団法人データサイエンティスト協会(東京・港)による下記の定義を、本書で紹介しています。

*ビジネス力:課題背景を理解し、ビジネス課題を整理・解決に導く力
*データサイエンス力:情報処理・人工知能・統計学などの情報科学系の知恵を理解し使う力
*データエンジニア力:データサイエンスを意味のある形として扱えるようにして、実装・運用する力

データサイエンティストとは、収集されたデータを分析し、それを活用できるように加工して、ビジネスに適用できる総合力――とまとめることができると思います。ただ先述したように、職業の歴史は浅く、まだ体系的な人材育成のプログラムも試行錯誤を続けながら進めている状況です。

高度な統計学や数学を身につけていないと、データサイエンティストになれないのではないかと、一見思われがちですが、実はそうではないと本書では強調しています。データの取り扱いをめぐって最低限の数理的な知識は必要とされますが、ここで重要なのは「データの理解・検証」「意味合いの抽出・洞察」、さらには得られたデータからそれをビジネスに生かす力だといいます。データサイエンティストは、単なるデータマンではなく、ビジネスに生かす発想力が備わってこそ初めて意味をなす、本書で繰り返し説かれている点です。このため、データサイエンティストは組織内の様々な部署、あるいは社外の取引先などと連携しながら、活動を進めることになります。その具体的な活動のイメージは第4章のショートストーリーで示されているので、初学者は特に押さえておくべきだと思われます。

データサイエンティストの需要に対して、供給が追いついていかない最大の理由は日本の教育体系にあります。
経済や経営、法律などを学ぶ学部は、日本の多くの大学に存在していますが、データサイエンスを学ぶ学部を持つ大学は少数です。日本初の「データサイエンス学部」は滋賀大学で2017年につくられました。それ以前では、体形的にデータサイエンスを学ぶことができる大学はあまり存在しませんでした。
データサイエンティストに必要な能力は「ビジネス力」「データサイエンス力」「データエンジニアリング力」であると述べました。これに対して、大学の学部を対応させると、「ビジネス力」は経営学部、「データサイエンス力」は理学部(数学科など)、「データエンジニアリング力」は情報学部などが考えられます。データサイエンティストは3つの能力をバランスよく持つことが重要なのですが、この3つをバランスよく習得させる学部がありませんでした。
(第5章 データサイエンティストが拓く未来 163~164ページ)
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