データサイエンティストのこれから
データサイエンティストの置かれた環境や課題については、第5章に詳述されています。体系的な育成プログラムがない中で、人材を育てるにも試行錯誤の連続。しかも、ビジネス界においても活躍を期待する分野も各社各様。育成の難しさに加えて、需要が高まっていることで、人材不足の様相を呈しているといいます。
現役のデータサイエンティストが自身のキャリア形成において抱えている不満が本書では紹介されています。略して「3ナイ」です。まず「手本がない」。会社の中で成功するデータサイエンティストがどのような存在か、ロールモデルがない。これは職業そのものの歴史が浅いことに起因しています。次に「上司の理解がない」。データサイエンスの新しい組織を立ち上げても、経営幹部や現場管理職の理解が進んでいないため、成果を評価してもらうことがなかなか難しい環境にあるようです。最後が「スキルアップのための時間がない」。データサイエンス分野は技術的な進化がめざましく、スキルアップを求められるものの、追いつかないというのが実情です。
しかし、こうした課題を踏まえてもなお、本書ではデータサイエンティストの将来性を高く評価しています。「これからはデータサイエンティストが経営コンサルタントに代わって、企業経営をサポートしていく時代になります」(211ページ)とした上で、「経営コンサルタントは、社内で同様の役割を担っている人がいる場合もありますが、客観性を担保するために外部に依存することが多いのが現状です。一方で、データサイエンティストの場合は、データという客観的なインプットを使うため、社外の人材だけではなく、社内人材でもファクトをもとに社内に新しい提案をすることができます。大切なことは、将来、企業にとって、データを使って客観的に経営課題を把握できるデータサイエンティストが必要になるということです」(211~212ページ)
(第5章 データサイエンティストが拓く未来 213ページ)
データサイエンティストは比較的新しい職種とはいえ、データを重視する企業経営や組織運営の流れは今後強まり、不可逆的ともいえます。データ分析だけであれば、AIを使えばより効率の高い仕事が期待できるかもしれませんが、自社のビジネスにどう応用していくか、その発想力はやはり人に期待された役割なのかもしれません。
◆編集者のひとこと 日本経済新聞出版・栗野俊太郎
もし自分が学生だったら、あるいは、企業勤めなどを経験してからデータサイエンティストになりたいと考えたら、何を知りたいだろうか? という視点で原稿に向き合い、著者のおふたりに疑問をぶつけ、できあがったのが本書です。
職業としての将来性、求められるスキル、業務の流れ、そして6つのストーリーなど、「実際のデータサイエンティストは何をしているのか?」という疑問に答える、充実した内容になっています。
これからデータサイエンティストになりたい、という方はもちろん、自社にデータサイエンスの部門を設けたい、データサイエンティストに仕事を依頼したい、と考えている方にも読んでいただきたい一冊です。