缶詰で楽しむ郷土の味 簡単レシピでご当地気分黒川博士の百聞は一缶にしかず(10)

ポークランチョンミート缶を使ったおむすび(筆者の手作り)

やや旧聞に属する話だが、ファミリーマートのおにぎり「SPAM(スパム) むすび ツナマヨネーズ」が昨年、大ヒットした。8月の発売から約1カ月間で累計400万個を売り上げ、8月単月では人気の定番商品「シーチキンマヨネーズ」と「直巻 焼しゃけ」を抑え、同社のおにぎり売り上げランキングで1位を獲得した。

スパムは「ポークランチョンミート」と呼ばれる缶詰の一種で、米国産だ。他にも、デンマーク産の「チューリップ」や、沖縄県産の「わしたポーク」などポークランチョンミート缶には数種類のブランドがある。どのブランドのものでも、スライスし、両面を焼いて卵焼きなどと合わせたおにぎりは、沖縄を代表する郷土料理のひとつになっている。何となれば、ファミマは缶詰を使った郷土料理をヒットさせたわけだ。

実は、缶詰を使った郷土料理は各地に存在する。伝統的な料理の素材が缶詰に置き換わったケースもあるし、缶詰が普及したことで初めて生まれたケースもある。今回はそれらの中から、特に面白い例を紹介したい。

サバみそ煮缶を使った「からそば」

沖縄県の石垣島の「からそば」は、さばみそ煮缶を使ったそば料理の一種。一般の家庭でも外食店でも味わえるポピュラーな料理だが、沖縄の他の島では見かけたことがないほどローカル色が強い。

からそばは、何といっても作り方が面白い。市販されている八重山そば(沖縄そばの一種)のビニール袋を開けて、麺は取り出さず、サバみそ煮缶を汁ごと入れる。そして、袋の上から手でよくもむのだ。もんでいるうちに麺が汁を吸い込んで柔らかくなり、サバの身もほぐれて食べやすくなる。現地の人によると「もめばもむほど味が染みこんでウマい」というが、その通りである。

画像では皿に盛りつけているが、元来は袋の中に箸を突っ込んで食べるらしい。食器がいらないし、食べ終わったら袋と空き缶を捨てるだけ。どこでも食べられるという利点がある。汁気がないこと、もしくは具がほとんどないことで、“空”(から)そばの名が付いた。

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