日経Gooday

仕事の量・質・環境を調整しなければ抜本的な解決にならない

医師に相談するのと併せて、上司にも不調が生じていることを打ち明けて、相談することが大切です。現在の仕事のストレスを緩和しなければ、根本的な解決にはならないためです。

リモートワークで部下とのコミュニケーションがうまくいかないことや、仕事の割り振りがうまくできずに抱え込んでしまっていることなどを相談し、適切な助言を受けたり、仕事量の軽減などを検討してもらう必要があります。

過緊張は仕事の質や量がその人のキャパを逸脱しているために発生する、交感神経系の過度な緊張です。そのため、仕事の質や量に関する問題を改善しないと、医療機関でいくら治療をしても根本的に治癒しません。

まずは、当面の間、残業を極力しなくてもよいように仕事量を軽減してもらったり、負担となっている責任の一部を免除してもらったり、ストレス源となっている人間関係を調整してもらうなどの、対策が不可欠なのです。

もし会社に産業医や保健師、衛生管理者などの衛生管理スタッフがいるならば、そちらにもぜひ相談してください。精神科医や保健師は、労働者の心身の不調の相談を受けて、管理者側に仕事量や人間関係の適切な調整・助言を行うプロフェッショナルです。衛生管理者も労働者の心身の健康に関する知識を持っていますので、ぜひ活用してください。

ストレスを緩和するセルフケアも有効

もし、相談者さんの睡眠障害が頻繁に起こる状況ではなく、月に数回だけというレベルであり、感情が不安定になる症状も常態化していないのであれば、上司や衛生管理スタッフに相談したうえで、自分自身で交感神経の緊張を緩めてリラックスできるような時間を増やすことを意識しながら、様子を見てもよいでしょう。

筆者は過緊張の症状が出てきた社員には、産業医として次のようなセルフケアをアドバイスしています。

ストレスを緩和するセルフケア

●ONとOFFのけじめをしっかりつけて、緊張を緩和する時間を確保する必要があるため、仕事が終わったあとは、仕事に関することに一切触れない。パソコンやスマホ、資料などが気になっても見ない。時間外のメールや電話には、基本的に対応しない。
 もし時間外に突発的な連絡が入ってくる場合は、上司に相談して改善してもらう。休日や時間外の突発的な仕事の対応は、確実に過緊張症状を悪化させる。
自宅でリモートワークを行っている場合は、仕事を切り上げて軽く体を動かすなどして、ONとOFFの切り替えを意識するとよい(写真はイメージ=PIXTA)
●リモートワークでは、ONとOFFのけじめがつけにくいため、仕事が終わったらパソコンから離れて、外に散歩に行く。もしくは、ジョギングやサイクリング、ヨガなど、軽めのスポーツで体をほどよく動かして、意識的にOFFに切り替える。
●過緊張のときは消化器系が弱っていることが多いので、油の量を控えたバランスの良い食事メニューを選び、できるだけゆったりと食事時間を楽しむ。
 あまり食欲がないときも、心身の疲労を悪化させないために食事をスキップしない。特に夏場は、そうめんやそば、スイーツなどの簡単なもので済ませがちになるが、できるだけ栄養のあるものを食べる。例えば、卵料理(つるっと飲み込める温泉卵もお勧め)や、豆腐、サラダチキン、白身の魚、野菜ジュース、たんぱく質やビタミンなどが入ったゼリー飲料などを活用して、栄養のバランスを極力整える。
●夜は精神的な緊張を悪化させる恐れのあるSNSやゲームなどから離れ、ゆったりと音楽を聴いたり、趣味の雑誌をパラパラ見たり、家族と団らんしたりして、できるだけリラックスを心掛ける。
●夏場の入浴は、体が温まりすぎると眠気がなかなか訪れないため、ぬるめのお湯でさっと汗を流す程度を心掛ける。
●寝室は暗く静かな環境に整え、エアコンを活用して快適な温度をキープできるように工夫する。
●休日には、自分の気の向くままに過ごせるような、時間に縛られないリラックスした過ごし方を心掛ける。
 朝から遠出するようなレジャーや、ハードなスポーツの予定を入れるのは、体の疲れを悪化させるため避けたほうがよい。また気を使う人との付き合いも控える。
 過緊張で心身が疲労しているときは、たとえ気の置けない友人や家族との遊びの予定であっても、当日「気が進まない」「行きたくない」という気分が湧き起こることもあるので、極力キャンセルできるような体制を作っておく。

以上、過緊張状態を改善するためのセルフケアを列挙してみました。

これらのセルフケアを試しても、不眠症状や倦怠感が緩和されず、メンタル面や身体面の不調の症状が悪化していく場合は、心療内科や精神科、もしくは身体症状の該当する科を受診して相談してください。

※筆者が本文で取り上げた事例は、実際にあった例から個人情報保護のため設定や内容を一部変更したものです

[日経Gooday2022年9月8日付記事を再構成]

奥田弘美氏
精神科医(精神保健指定医)・産業医(労働衛生コンサルタント)・株式会社朗らかLabo代表取締役。1992年山口大学医学部卒。精神科臨床とともに、都内約20社の産業医を兼務し、日々多数の老若男女の心身のヘルスケアを行っている。執筆活動も精力的に行っており、近著には『「会社がしんどい」をなくす本』(日経BP)、『心に折り合いをつけて うまいことやる習慣』『不安と折り合いをつけて うまいこと老いる生き方』(中村恒子氏との共著、すばる舎)などがある。

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