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街角に「録音ブース」 長距離通信に使われたレコード

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ナショナルジオグラフィック日本版

「ハロー、お母さん、お父さん、ブランチ」。静かな声が、古いレコードのブツブツという雑音に混じって聞こえてくる。「家の方の様子はどう? これはダラスで録音しています……すごく狭い店で、ピンボールマシンや、それと似たようなものがたくさんあるんだけど……」

直径7インチ(約18センチメートル)の小さなディスクには、1954年10月の日付がある。色あせた緑色のラベルからは、声の主が「ジーン」で、「家族のみんな」にあてて録音したものであることがわかる。この1分間のメッセージの中で、ジーンは自分が「アメリカを見て回る」旅をしていることを示唆し、自分のことは心配いらないと家族に伝えている。

「感謝祭のころには旅を終えると思う」。米テキサス州ホットスプリングスで録音された2つ目のレコードで、ジーンはそう言っている。最初のレコードから、あまり時間をあけずに録音されたものだ。「ぼくの手紙が届いているといいんだけれど。それでぼくの方も、みんなが送ってくれた手紙を受け取れるとうれしい。かなり長い間やりとりをしていないし、みんなから連絡をもらえるのをとてもとても楽しみにしています」

今ではほぼ忘れ去られているこの音声は、世界で最も早い時期に録音された「ボイスメール」のひとつだ。20世紀前半、こうした音声による手紙は、主に狭いブースで録音され、金属製のディスクやビニールのレコード盤にプレスされた後、郵便で世界各地に送られた。今では家庭で音楽を楽しむものとなっているレコードプレーヤーは当時、長距離通信の手段として使われていたのだ。

遠くにいる人への連絡手段

音を記録するフォノグラフ(円筒式蓄音機)が発明されたのは19世紀末。だが、人の声を運ぶというアイデアは、それより300年ほど前から人々の想像の中に登場していた。中国、清王朝時代の史料には、ある不思議な装置の存在が記されている。その木製の筒は、そこへ向かって話をして封を閉じ、それを受け取った人が封を開ければ、まだ中に残っている音を聞くことができるというものだった。

トーマス・エジソンは1877年にフォノグラフを発明した。エジソンは当時から、この装置がビジネス、教育、時間管理の形を大きく変える可能性を見いだしていた。

しかし、エジソンが何より念頭に置いていたのは通信だった。自分の発明は口述筆記や手紙の作成に使えると、彼は考えた。19世紀末、日常的な個人間の通信は手書きの書簡で行われるのが一般的だった。1900年代初頭に広く使われるようになる電報は、緊急性の高い短めのメッセージに使われていた。また1915年にはアレキサンダー・グラハム・ベルがニューヨークからサンフランシスコまで初めての大陸横断電話をかけたが、長距離電話は1950年代までは、高価すぎて庶民には手の届かないものだった。

1887年、エミール・ベルリナーによってフォノグラフの発展型であるグラモフォン(円盤式蓄音機)が開発されたことにより、録音した音声を長距離通信に利用できる可能性が生まれた。グラモフォンは円盤を利用して記録と再生を行うため、保存、再生、送付が以前よりも容易になった。1920年代初頭には、録音音声が初めて通信のために郵送されたが、郵便で声を送るという習慣が本格的に世界に広まったのは1930〜1940年代のことだった。録音ブースか家庭用の録音機器さえあれば、個人が手ごろな価格で利用することができた。

1940年代初頭、米国のミュートスコープ社が「ボイス・オ・グラフ」という機械を発売し、これによって米国内でボイスメールが大々的に普及した。ボイス・オ・グラフは現代の証明写真撮影用ブースとよく似た背の高い木製のキャビネットで、側面には「RECORD YOUR OWN VOICE!(自分の声を録音しよう!)」と書かれていた。この録音ブースは、遊園地、遊歩道、観光地、交通の要所、軍事基地など、人が多く集まる場所に置かれていた。

使用者はボイス・オ・グラフの中に入り、コインを数枚入れてから、数分間のメッセージを吹き込む。それだけで、45回転のシングル盤と同じ大きさのレコードがすぐに出来上がった。このレコードは何度も再生できる程度には耐久性があり、しかも薄くて軽いため、普通の手紙よりも少し高い程度の料金で郵送することができた。多くの場合、封筒も値段に含まれていた。

愛の言葉

人々が送ったメッセージには、興奮や緊張、喜びや恥ずかしさなど、さまざまな感情が込められていた。長い旅に出ている者たちは、声を録音して家族や友人に近況を伝えた。第2次世界大戦中には、ほぼすべての戦域の基地に録音ブースが置かれ、兵士たちは自分の声で大切な人たちを安心させるためにボイスメールを利用した。

バレンタインに送られた熱烈な声のラブレターは、数え切れないほど存在する。遠く離れた場所から届けられるそうしたメッセージの多くが、相手に会いたいという切ない気持ちを吐露している。「元気を出して」。1945年の日付が書かれた録音では、リーランドという名前の声が、ニューヨークの録音ブースから妻にそう呼びかけている。「みんな落ち込んでたらダメだぞ。マイク、みんなそろって家に帰るからな、帰ったらまた前と同じように暮らせるから」。1940年代のアルゼンチンで録音されたボイスメールでは、ある男性がバイオリンを演奏した後、子守唄を歌っている。「眠れ、眠れ、いとしい娘よ。もう夜が更けるよ」

当時、家族はこうした声のメッセージが届けられるたびに、レコードプレーヤーの周りに集まって繰り返し聞いていた。しかし、再生するたびに針がデリケートな溝を削り、やがてメッセージはほとんど聞こえなくなっていった。

現在、米プリンストン大学では、メディア理論家で教授のトーマス・レビン氏が、こうした過去の音声の保存に取り組んでいる。レビン氏は、この類としては世界で唯一となるアーカイブを作り、これを「フォノ=ポスト(音の郵便物)」と名付けた。最盛期には、米国内におそらく数千台のボイス・オ・グラフの機械が設置され、世界各地にはさらに多くの録音ステーションがあった。「何百万通という音声の手紙が、米国、南米、ヨーロッパ、ロシア、中国でやりとりされていたのです」とレビン氏は言う。

レビン氏はすでに3000枚のレコードをデジタル化し、それらをすべてプラスチック製の透明なスリーブに入れて、詳細に目録化したうえで温度管理された部屋に保管している。

まだ処理を済ませていないレコードは数千枚にのぼり、レビン氏が収集するにつれてその数は増え続けている。レビン氏はAI(人工知能)のボットを駆使して、定期的にオークションサイトをチェックし、自分の代わりに入札を行わせている。ときには、自分の親戚の声を売ろうとしている人に出くわすこともあるという。「わたしはメールを書いて、おじいさまの声を売ってしまわれるのですか、と尋ねるんです」とレビン氏は言う。「声には価値があるという感覚がないので、こうした物を売ろうとするのでしょう」。それでも、レビン氏がレコードの内容をMP3ファイルにして渡しましょうかと提案すると、たいていは非常に喜ばれるという。

過去の声

プリンストン大学のフォノ=ポスト・アーカイブには、有名人の声はほとんど収蔵されていない。「このアーカイブに収められている録音の大半は、ごく普通の人々が、極めて日常的なことについての欲望、願い、幻想を吐露しているものです」とレビン氏は言う。注意深く耳を傾ければ、それらは多くのことを教えてくれる。

歴史言語学者が「ボイスメール」に特に強い興味を抱くのは、一般の人々がどのように話していたのか、非常に早い時期に録音されたサンプルを提供してくれるからだ。つまり、彼らが会話のときに使う語彙、発音、アクセント、文の組み立て、イントネーションなどが確認できるのだ。「これらは編集されておらず、体裁も整えられていません」とレビン氏は言う。「録音はいったん始まれば、何か言おうと言うまいと終わるまで止まりません。もし何も言うことがなければ、そこからも読み取れるものがあるのです」

1960年代にカセットが登場すると、ボイス・オ・グラフのようなサービスは急速に廃れていった。しかしこのボイスメール現象は、短命ではあっても、世界のコミュニケーション史において重要な位置を占めている。「わたしたちが今収集しようとしているのは、メディア史におけるひとつの章の名残です」とレビン氏は言う。「それは非常に大規模であらゆる場所に存在した文化的習慣だったにもかかわらず、今では忘れ去られてしまったものです」

多くの人にとって、これらの録音は、自分の声を記録する初めての機会となった。緊張からぎこちなくなっている声もあれば、紙に書かれた文を読み上げているような声もある。また中には、初めて自分の声を録音するという状況に直面して、自分は今、おそらくは自分自身よりも長くこの世に残る、極めて個人的な痕跡を残そうとしているのだと気づく人たちもいた。

「不思議なことですが、一定数の人たちが、死について語っています」とレビン氏は言う。「彼らは未来に向かって書いているのです」。ひと呼吸置いてから、レビン氏はこう言った。「そしてその未来については確かなことがひとつあります。それは、彼らはその一部ではないということです」

(文 JORDAN SALAMA、写真 REBECCA HALE、訳 北村京子、日経ナショナル ジオグラフィック)

[ナショナル ジオグラフィック 日本版サイト 2023年2月22日付]

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