名曲の初期の姿が楽しめる特典も

今回発売された6形態のなかで【スーパー・デラックス(5CD+1Blu-ray)】【LPスーパー・デラックス(4LP+1EP)】では、最終的にアルバム『レット・イット・ビー』や同名映画に結実することになる「ゲット・バック・セッション」の様子を2枚のCDとLPで聴くことができる(「ゲット・バック・セッション」については記事「ビートルズ映画『ゲット・バック』 未公開映像に興奮」参照)。

『レット・イット・ビー』スーパー・デラックス(5CD+1Blu-ray)。1万9800円。ブルーレイにはハイレゾ(96kHz/24bit)、5.1サラウンドDTS、ドルビー・アトモス・ミックスのオーディオが収録されている。
『レット・イット・ビー』LPスーパー・デラックス(4LP+1EP)。2万5300円。

CDのディスク3(同LP3枚目)の「ゲット・バック/リハーサル・アンド・アップルジャムズ」には、前半部分に1969年1月2日からのトゥイッケナム・フィルムスタジオでのリハーサルセッションなどを収録。後半部分には1月21日からアップルスタジオに場所を移して行われたセッションから気楽なジャムの様子を中心に収録している。

ここには新鮮な感動が満載だ。オープニングでは、リハーサル初日にメンバーが新年の挨拶を交わし、ジョージ・ハリスンが新曲「オール・シング・マスト・パス」(解散後初のソロアルバムのタイトル曲になる)を初披露。その後ジョン・レノンがのちにソロで発表することになる「ギミ・サム・トゥルース」を演奏。さらにはアルバム『レット・イット・ビー』には収録されずに『アビイ・ロード』にまわされたポールの「シー・ケイム・イン・スルー・ザ・バスルーム・ウィンドー」、ジョージの「サムシング」、リンゴ・スターが披露する「オクトパス・ガーデン」など、数々の名曲の初期の姿をたっぷりと楽しむことができるのだ。また、「ゲット・バック」(テイク8)には演奏後のやりとりも収録、この時点ではマーティンがそれなりの存在感を示していることも確認できる。

『スーパー・デラックス』CDのディスク2(同LP2枚目)の「ゲット・バック/アップル・セッションズ」は、このセッション後半のアップル・スタジオやアップル屋上で生まれたアウトテイクを中心に収録している。ちょっとした演奏の違いも聞き逃したくないサウンド・マニアにとっては、アルバム収録曲のアウトテイクが高音質で楽しめるのだから、じっくりと聴き比べを楽しめる1枚になるに違いない。

個人的には6トラック目のポールが「レット・イット・ビー」の合間にスローテンポで歌う「プリーズ・プリーズ・ミー」に耳を奪われた。この曲には、ジョージ・マーティンのアドバイスでスローテンポからアップテンポに変え、ビートルズ初のナンバーワンヒットになったというエピソードが残されている。ポールもまたそんなことを思い出しながら歌っていたのではないか、という妄想までもが広がってしまったのだ。

またどのテイクからも4人がとても楽しそうに演奏している様子が伝わってくるのもうれしい。「ゲット・バック・セッション」に暗いイメージを抱いていたオールドファンには、それが次第に取り払われていく快感を味わうこともできるかもしれない。

幻のアルバム『ゲット・バック』の音源も

【スーパー・デラックス】のCDディスク4と【LPスーパー・デラックス】のLP4枚目には、これまで幻のアルバムと呼ばれていたグリン・ジョンズがプロデュースした『ゲット・バック』の1969年ミックスが収録されている。

1969年1月に始まったゲット・バック・セッションの過程は複雑で、サウンド面を実質的にプロデュースしていたのは、1968年のアルバム『ザ・ビートルズ(ホワイトアルバム)』でメンバーとの間に確執が生まれていたジョージ・マーティンではなく、ポールが指名した売れっ子エンジニアのグリン・ジョンズだった。彼はポールの意図を汲み、ライブバンドとしてのビートルズの魅力を引き出そうと奮闘。1969年1月のアップル・スタジオでのレコーディングとアップル屋上でのコンサート音源をもとに、マーティンの力を借りながら、1969年4月になんとか先行シングル「ゲット・バック/ドント・レット・ミー・ダウン」のリリースにこぎ着け、5月28日には今回収録されたアルバム『ゲット・バック』(1969年グリン・ジョンズ・ミックス)を完成させている。だが、メンバー4人の合意が得られず発売は棚上げ、幻のアルバムとなっていたのだ。

今回初公開されたこのアルバムは、マスターテープに大きな問題があったのか、音質が悪く、いくつかの曲では編集が加えられているようだ。それでもスペクターの『レット・イット・ビー』とは異なる、ポールが意図したオーバーダビングなしのビートルズの演奏が楽しめるのがうれしい。また、『レット・イット・ビー』から最終段階で外された「テディ・ボーイ」のビートルズ・バージョンなどを聴くこともできる(のちにポールの初ソロアルバム『ポール・マッカートニー』に収録)。とはいえ、全体を通して聴いてみると、その流れにも収録内容にも消化不良の感が否めず、正直なところ戸惑いを感じてしまう。ビートルズが発表しなかったのは純粋に音楽的判断だったように思える。

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貴重なテイクを4曲入りEPで収録