2022/4/15

社会が変化しているとき、リーダーシップの在り方も変わる

小早川優子さん(以下、小早川さん) 単刀直入に言うと、今、マネジャーとしてのロールモデルがいないというのは、日本の社会人全体の勉強不足に起因していると思います。最適なリーダーシップの取り方は、環境によって変わります。特に今日のように、社会に大きな変化が起きているときには求められるリーダーシップも大きく変化します。これは経営学では基礎的な話ですが、日本の職場には浸透していないのが現状です。

欧米の大企業と比較すると、日本では社内の管理職研修の予算が非常に少なく、個人が(社会人が必要な知識を学び直す)リカレント教育やスキルアップ、自己啓発に掛ける金額もOECDの中で最下位レベルです(*)。経営者も社員も、勉強する機会がなかなか得られないのでしょう。いまだに過去の成功体験から抜け出すことができず、危機感も足りず、リカレント教育を行っていない。それゆえに、人材教育に対しても合理的な判断ができない、という結果になっていると思います。

余談になりますが、太平洋戦争下の日本軍を分析した米国による評価に、「兵は優秀、下士官良好、将校凡庸、指揮官愚劣」という言葉があります。軍隊組織をそのまま現在の日本の組織に当てはめるのは乱暴な話ではありますが、日本軍の組織論的研究である『失敗の本質 日本軍の組織論的研究』(中公文庫)を読めば、現在の日本社会が抱える課題と重ね合わせる人も多くいるのではないでしょうか。

過去の成功体験に縛られているからなのか、管理職の人たちが新しいビジネスの理論や方法論に関して研修を受ける機会を与えられず、「職場で学べ」「経験から学べ」「気合で学べ」といった部活動的な流れでやってきたことが一番大きな理由なのではないかと思っています。

「若手社員がすぐに人事部に話をしにいってしまう」というのは、若手が社内の少数派であるために、「自分で自分を守らなくてはいけない」という自己防衛の気持ちを強く持っているからでしょう。本にも書きましたが、若手社員が上司との面談中、発言を録音しているというケースもあります。基本的に少数派は、既存の社会、社内の人に対する信頼度が低いのです。

日本の教育における事情も関係しています。学校の授業では、他の生徒とディスカッションをする経験が少なく、「他の人が自分とは異なる意見を持っている」という感覚が弱い傾向があります。日本の学校教育では、勉強では「正解を導く」というスタンスが強く、「みんなが同じ正解を求めるのは当たり前」という意識が潜在的にあるのでしょう。「みんなが同じ常識を持っている」と考えていたほうがラクだということもあり、そうした意識がどんどん強まってしまうのです。

*「高等教育の将来構想に関する参考資料」文部科学省(2018年2月)参照

直属の上司にダメと言われないよう、さらに上に話を持っていく

小早川さん さらには、今の若手社員にはルールを守ろうとする人が多い傾向があります。直属の上司に「それはだめ」と言われたら動けなくなってしまうので、それを避けるために、上司を飛び越して、さらに上の人に話そうとしてしまいます。

例を用いて説明しましょう。街中で「この人は危険なのでは?」と思われる人と遭遇したとします。大声を上げたり、誰かに暴力を振るっていたり。そんなときには、その人に直接注意するよりも警察を呼んできたほうが自分の身を守れるように感じますよね。こんなふうに、若者は自分を守るために、人事・労務に話をしたほうがいいと判断するのです。これは肌感覚ですが、今の若者はリスクに対して敏感で、危機管理意識が高いと思います。社会的マイノリティーであることも理由の一つとなって、「権威の力を借りることが正しい」という考えを持つのだと思います。

■勉強すれば、最先端の研究から学ぶことができる

小早川さん 日本の多くの職場では「仕事は実地から学べ」とよく言われますが、実地から学べることには限界があります。一方で、勉強すれば、最先端の研究から学ぶことができ、その効果は高いです。

最近、ダイバーシティに関する相談を受けることが増えていますが、そのとき、ある人がこう言っていました。「50代男性の社員から『ダイバーシティの大切さも分かる。イノベーションの大切さも分かる。でも、ダイバーシティとイノベーションの関係性が分からない』と言われるのです」と。でも、その辺りのことは、ダイバーシティ経営やイノベーションに関する本、または経営学の雑誌、「日経ビジネス」や米誌「ハーバード・ビジネス・レビュー」などを読んでみれば分かることですし、世界中の管理職層の多くは、こうした書籍を読んだり学んだりしているはずです。

ですが、日本では経営に関する基本的なことでさえ、社内研修では学びません。最新の経営学の情報を知るチャンスがないために、世界の会社がどのような方向に進んでいるのかということを、自分が担当している業務を通じてしか知らないことが多く、全体を通した理解につながりにくく、時間がかかってしまうのです。

※ Aさんと小早川さんの対話は、次回に続きます。

(構成 小田舞子=日経xwoman)

[日経xwoman 2022年3月11日付の掲載記事を基に再構成]

小早川優子
ワークシフト研究所 代表取締役/慶応義塾大学大学院経営管理研究科修了。経営学修士/米国コロンビアビジネススクール留学。2012年に独立。ダイバーシティ・マネジメントやリーダーシップ開発、交渉術のコンサルタント、セミナー講師として東証一部上場企業からベンチャー企業、官公庁、地方自治体まで年間100回以上登壇し、5年連続満足度99%のビジネスプログラムを提供。主催する「育休プチMBA」には延べ1万人のママが参加。