
海外ではほとんど見かけないのに、日本では昔から人気のコーヒーゼリー。どこか懐かしい昭和レトロな趣もあるが、日本独自のコーヒー文化として、若い世代向けのカフェでもメニューに置く店は少なくない。
今回は、昭和、平成、令和とコーヒーゼリーを作り続けている老舗カフェ3軒を紹介しよう。いずれの店のコーヒーゼリーも30年以上ファンに愛され続けているロングセラー商品だ。
絹ごし豆腐のようなコーヒーゼリー 「モカ」
最初は1975年創業の「COFFEE モカ」(東京・練馬)。東京の西武鉄道・池袋線、江古田駅の北口から徒歩3分ほど、武蔵野音楽大学の近くに店を構える。「コーヒーゼリーを始めたのは開店して10年目の85年だから、今年で37年になりますね」と店主の藤野ミチコさん。
モカのコーヒーゼリーは、白い液体の中から顔をのぞかせていた。器も白いせいか、これほど白が占める割合が高いコーヒーゼリーもめずらしい。
店ではあらかじめ大きめにカットしたコーヒーゼリーを保存容器にスタンバイさせている。オーダーが入ると、一人分の塊を手のひらにのせ、豆腐を切るように包丁でカットして、器へすべらせる。ゼリーの上にスプーンで砂糖を2杯ほどかけて牛乳を注ぎ、生クリームも少し加えて、仕上げにアイスクリームをのせる。
ゼリーの切り口はくっきりと立っているが、舌にのせると押し返すような弾力はなく、とてもやわらかな口当たり。切り方が豆腐のようだったが、食感もどこか絹ごし豆腐を思わせる。何度か口に運んでいると、時々、砂糖がじゃりっと歯に当たり、これが食感と味のアクセントになってだんだんクセになってくる。
ゼリーには「舌に残る苦味が軽やかだから」と、モカのフレンチローストが使われている。ドリップで淹(い)れ、固めるのは粉ゼラチン。アイスクリームやミルクの甘さとバランスをとるため、ゼリーにもほんの少しだけ甘味をつけている。
「見た目は変わってるけど、おいしいほうがいいでしょ」と話す藤野さんも、当初はガラスの器に一人分ずつゼリーを固め、生クリームをかけるスタイルをとっていた。もっとおいしくできないか、と試行錯誤を重ねるうちに、気がついたら今の形になっていたため、「いつからこうなったのか、はっきりとした年はもう思い出せないわね」とのこと。ちなみにコーヒーゼリーは通年提供している。

コーヒーゼリーを満喫したあと、一杯飲むとしたら何がいいだろう。店ではホットだけでなくアイスコーヒーもオーダーが入ってから1杯ずつドリップで淹れて提供していると聞き、頼んでみた。こちらのコーヒー豆もゼリーと同じフレンチローストのモカだ。
モカではアイスコーヒーも砂糖で甘味を補うため、先に甘さを尋ねられる。シロップが当たり前だと思っていると、不意を突かれるが、これも創業からのこだわりだ。1杯390円。オーダーメードのアイスコーヒーもゼリーの後の楽しみにしていただきたい。