エスプレッソのように隙のない味 「カフェ・ド・ランブル」
東京の銀座8丁目にある「カフェ・ド・ランブル」は、103歳まで現役で店を守り続けたコーヒー界のレジェンド、故・関口一郎さんが1948年に創業したネルドリップコーヒーの老舗。コーヒーゼリーは、売り物としてではなく、サービスとして関口さんの妹の竜子(たつこ)さんが出していたのが始まりだ。
オーダーすると「お酒は大丈夫ですか?」と聞かれた。仕上げにかけるコーヒー・リキュールの確認だった。アルコールがだめな人には、一晩かけて抽出した水出しコーヒーが代わりにかけられる。これもまたぜいたくだ。

ランブルのコーヒーゼリーは口当たりはやわらかながらも、奥にしなやかなつるっと感があって心地いい。この独特の舌触りは寒天とゼラチンの併用から生み出されるもので、竜子さんが寒天でコーヒーゼリーを作っていたときの名残だ。
「当時は水ようかんのように作ってましたよ。バットに固めて、包丁で切り出して」と話すのは、80年から店に立ち続ける林不二彦さんだ。
続けて商品化した年を尋ねてみたが、どうも判然としない。しかし、ちょっとした手がかりが残っていた。ランブルのメニューには商品名の頭に番号がふられているのだが、これは提供が始まった順番を示している。番号が若いほど古く、メニューにはNo.20まである。コーヒーゼリーはNo.19。「No.15のコーヒー・リキュールまでが70年代で、後は80年代以降というのはわかるんだけど、はっきり何年というのは思い出せないね……」。その前にあるアイスコーヒーも始まりの年が不明だったので、絞り込みも難しかった。

提供が始まってからは、一つずつグラスに冷やし固めるスタイルをずっと続けてきたが、2021年、提供スタイルを変えた。コーヒーゼリーを大きく仕込んでおいて、オーダーが入ってから器によそい、軽くクラッシュさせる形にした。
味のほうはそのままだ。ゼリーに使われている豆はブレンドの中煎りに深煎りを少し混ぜ、甘味も付けている。組み合わせるのは、エバミルクとアイスクリームで、仕上げにラム酒ベースのコーヒー・リキュールか水出しコーヒーをかけて完成する。甘味も手伝って、ゼリー版エスプレッソのように隙のない濃密な味わいだ。

コーヒーゼリーをゆっくり味わったあと、No.20のカフェ・ムスー(コーヒー・ソーダ)を頼む。昨年から登場した最新メニューだ。淹れたての熱いコーヒーをシェーカーに移し、冷凍室の氷の上でクルクルと回転させて冷やしてからガス入りの水と合わせたもので、微炭酸が喉をやさしく潤す。コーヒーゼリーの余韻に浸りながら飲むのには格好の一杯だ。
コーヒーゼリーは通年提供しているので慌てなくてもいいが、カフェ・ムスーとの組み合わせは暑い季節のほうがしっくりくる。この夏、体験してみてはいかがだろう。
(ライター 伊東由美子)