「ミルクからあふれる赤い果実のかおり」

イチゴのショートケーキを再構築すると……

最後はデザートだ。2種類あり、そのうちの1つが「ミルクからあふれる赤い果実のかおり」。担当した加藤峰子シェフパティシエは、フランスの「ミシュランガイド」に並ぶグルメガイド『ゴ・エ・ミヨ2022』(22年3月発刊)で「ベストパティシエ賞」を受賞した。

ミルクは、日本よりイタリアの居住年数のほうが長い加藤さんがなかほら牧場を自ら訪ねて感激し、使うことを決めたという。メニュー名の通り、熊本県のひかり農園の無農薬、無化学肥料栽培によるイチゴの「香り」に焦点を当てた。「日本のイチゴは甘く、だいたい糖度10~16度ぐらいではないでしょうか。でも、香りが弱い。わたしにとって、イチゴは香りと酸味で春を告げるものです。このイチゴは、納品のときに店のエレベーターに充満するほど香りが強いんです」と加藤さんは話す。

皿の上からはイチゴの赤い果実は一切見えず、一見すると、白づくし。泡立てたミルクを乾燥させたもの、イチゴのエッセンスが入ったジェラート、スポンジケーキ、パンナコッタ、濃厚クリーム、ミルクがけのイチゴ……と「イチゴのショートケーキ」と構成要素は同じでも、新たに再構築したデザートなのである。酸味のあるイチゴは、ほかの構成要素とのバランスがよい。

「日本の里山の恵 花のタルト」

2番目のデザートは、いまや加藤さんの看板メニューである「日本の里山の恵(めぐみ) 花のタルト」。このデザートは「ヴィーガンコース」にも入っている。米粉のタルト生地に、オレンジとレモンの果汁を加えた豆乳クリームを入れ、メイプルシロップで味つけしたもの。上には、えぐみのない約20種のエディブル(食用)フラワーとハーブが載っている。

「イタリアの食後酒アマーロのように、デザートが消化を助けるようにと考えています。ですから、大和当帰やヨモギといった薬草もハーブのなかに入れました。余った花やハーブは乾燥させ、ハーブティーとしてスタッフたちに配ったりして楽しんでもらっています」(加藤さん)

日本の里山をイメージしたこの小さなタルトは手でつまんで食べるため、鼻の近くまでもっていく。すると、まさに百花の香りがし、花を口に含むと、幼いころに遊んだレンゲ畑や、蜜を吸ったツツジの花の記憶がわたしによみがえった。サステナブル・イタリアンとは、地球とそこで生きる物に思いをはせ、人を優しい気持ちにさせる料理なのかもしれない。

中村 浩子
イタリア食文化文筆・翻訳家。東京外国語大学イタリア語学科卒。イタリアの新聞社『ラ・レプブリカ』極東支局長助手をへて、文筆・翻訳へ。著書に『イタリア薬膳ごはん』(共著)『「イタリア郷土料理」美味紀行』、訳書に『イタリア料理大全 厨房の学とよい食の術』(共訳)『スローフード・バイブル』。

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