「平等な昇格の機会がある」ことがダイバーシティの証し
女性活躍推進に取り組む上では、女性を積極的に採用したり、産休・育休のサポート制度を整えたりすることも大切だが、それらの施策は「入り口」に過ぎない。キャリア意識の高い女性たちにとって「ダイバーシティ」とは、仕事の割り振りや育成の機会において不利な扱いを受けず、男性と同等に意思決定にかかわる経験を積み、昇格できるかどうかを指す。
今回のアンケートでは「組織のダイバーシティが進んでいるかを、どの点で判断するか」についても聞いた。すると、「昇格人事に、性別・年齢・国籍によらない公平なルールや透明性がある」ことを挙げた人が58.8%と最も多く、次いで「役員など意思決定層における女性の人数や割合が多い」(52.5%)が続いた。

公平で透明性のある昇進のパイプラインをつくることが、「多様性の証し」として認識される時代になっている。
では、女性管理職やリーダーを増やすために、組織は何をすべきか。アンケートで聞いたところ、「女性のための管理職研修」や「メンター制度」といった、女性をエンパワーする施策以上に、「トップ・経営層の意識変革」や「男性管理職の意識変革」を求める声が多かった。

「女性へのエンパワーメントも大事だが、それだけでは、企業全体を変えるのは難しい。実際に現場でダイバーシティ施策を実践するのは、管理職層だ。男性が多くを占めるこの層がダイバーシティの考え方を好意的に受け止めて実践しなければ、効果が出ない。とはいえ管理職は目の前の仕事で手いっぱいだ。企業は管理職層のマネジメントをサポートしていく必要があるだろう」と、高村さんは指摘する。
高村さんによれば、経営人材の多様化という点では、「部長層」に着目することも重要だという。「部長は本来、現場マネジメントの課長の延長ではなく、担当組織の未来像を描き、戦略立案を行うなど、経営的な目線が求められる、いわば経営層へのパイプラインだ。部長相当の管理職が長期的・経営的視点から部門全体のダイバーシティを進めるよう、経営層から促してほしい。さらに、部長相当のポジションに女性を増やすためには、候補となる女性が『質の高い』経験を積めるようにすることが大切。重要な会議に同席させる、経営のエッセンスを伝えるなど、経営層が主導的にかかわって育成することが必要だ」
「経営層の男性に話を聞くと、今のポジションに就けたのは『運が良かったから、周囲に恵まれていたから』と話す人が多い。つまり、男性には自然と機会が与えられやすいが、女性はそうとは限らない。意識的に育成する必要がある。昇進の候補者に必ず女性を入れるなどの取り組みも有効だろう」と、高村さんは指摘する。
(取材・文 久保田智美=日経xwoman編集部)
中央大学大学院 戦略経営研究科(ビジネススクール) 准教授。博士(学際情報学)。89年に三井生命保険入社後、メリルリンチ・マーキュリー投信投資顧問などを経て、09年に東京大学社会科学研究所特任研究員。同年、内閣府男女共同参画分析官。経済産業研究所コンサルティング・フェロー、内閣府経済社会総合研究所客員研究員、成城大学特別任用教授などを経て、19年から現職。専門は人的資源管理、組織行動、キャリア論、ワークライフバランス論。