下戸に独占させてなるものか、酒愛好家が手にしたいモクテル

同店ではモクテル営業に切り替えるにあたって、ソーダやトニックウオーター以外はなるべく自家製で行こうという方針が長尾さんから示された。そこで旬の果物やハーブ、スパイスで作るオリジナルシロップを6種類ほど用意してモクテル営業に臨んだ。この期間、多くの飲食店で重宝されたノンアルビールにも、自家製のジンジャーシロップと塩レモンを組み合わせて「Werkオリジナルノンアルコールビール」(1100円)として提供し定番になった。
「アルコールが入らないと味や香りが表面的になってしまうので、立体感や奥行きを出す工夫は常に課題でした」(成田さん)

シロップは甘さをつけるためのものと思われがちだが、香りの奥行きやボリューム感を補う役割も大きい。クラシックなカクテル「ブラッディ・メアリー」(1210円)のノンアル版や、エルダーフラワーのシロップを合わせた「ヨーグルトサワー」(1210円)、ビター系のレモンシロップで奥行きを加えた「コーヒートニック」(1210円)など、バリエーションを出しながらお酒を飲める人、飲めない人双方が満足できる味わいを丁寧に作り上げていった。
この10月からは、オリジナルカクテルのうち半分をモクテルにした。引き続き「お酒が飲めない人も『ウエルカム』ですよ、というメッセージにしていきたい」と成田さん。さらに6月からスタートしたモーニング営業も継続中で、ここでは長尾さんがモクテルの朝バージョンともいえるオリジナルドリンクを考案し、新境地を切り開いている。ノンアル営業をきっかけに、バーの可能性は思いがけない方向へ広がりを見せ始めた。

これまでバーではお酒しか飲まなかった人の中にも、モクテルを口にし、習慣にしたことで、その良さを体感した人はいたようだ。アルコール離れは若い世代の話だけでなく、酒量が落ちる中高年層も同じ。心地よくお酒と付き合っていくうえでも、大人が堂々と手にしたくなるモクテルは、これからもっとバーに必要とされそうだ。
(ライター 伊東由美子)