そんなとき、リーダーは自身の過去の失敗を共有しながら決断の理由を説明する。今回と同じように仕事はできるが、周りからの信頼を得られていない部下がいた経験だ。その部下の態度の悪さを自分が我慢をすればいいと黙認し、さらに昇進までさせたことで、チームの士気を下げ、業績も低下させた経験を周りに共有したのだ。
その話を聞けばチームメンバーは解雇の決断の意味を理解ができる。苦しい決断が過去の過ちや失敗を踏まえたものであることを真摯に説明できるリーダーは、周りからの信頼も得やすいのだ。
ここまで読むと多くの読者が思うであろう。「そんな立派なリーダーは見たことがない」と。筆者も全く同意見だ。信頼が構築されているチームに出会ったことは、片手で数えるほどもないかもしれない。
それはなぜか? なぜ組織の信頼を作り、チームを巻き込むリーダーは出てこないのか? ただ本書をみんなが読んでいないからなのか? いや、違う。立派なリーダーが偉くなるとは限らないからだ。残念ながら世の中は、正義が勝つとは限らない。
本音など見せていたら出世ができない

ジェフリー・フェファー『悪いヤツほど出世する』(村井章子訳、日本経済新聞出版)は、1冊目とは異なり、むしろ嘘をつく非誠実なリーダーの方が勝ち残ってしまっている悲しい現実を浮き彫りにする。本書はアメリカの理想論ばかりが先行するリーダーシップ論へ疑いの目を向ける本であり、必ずしも日本に当てはまるという文脈で書かれたものではない。しかし筆者は多くの人がこの本の内容に共感するのではないかと考える。
本書では理想的なリーダーに必要だとされる5つの要素である、①謙虚さ②自分らしさ③誠実さ④信頼⑤思いやり――が本当にリーダーに備わっているのかを紹介していく。そしてご想像の通り、必ずしもそうではない。残酷な真実を見てみよう。