おふざけとシリアスの使い分け

ルパンは基本的に超ポジティブな楽観主義者だ。世界一の大泥棒を自負し、不可能はないと信じる。だから、第2シリーズ第3話「ヒトラーの遺産」では、こんなせりふが飛び出す。

「なーに、壁なんてのは越えるためにあるんだ」

ここで言う「壁」とは、盗みの邪魔になる「ベルリンの壁」だ。実際に壁が崩れるのは、ずっと後の話であり、当時の壁越えは至難だったが、ルパンはちっとも気にしない。「世界中の銀行は俺様の貯金箱」といった誇張法もルパンの好む言い回し。どんなに距離が遠くても、「指でひとまたぎよぉ、世界地図で見りゃな」と混ぜっ返されてしまえば、言い返す気も失せそうだ。

正面から反論するのではなく、方角をずらす。大げさなたとえで、煙に巻く。真面目に食ってかかるのがばからしく感じるような、ふざけた切り返しで肩透かしを食らわせる。ルパンはこんなしゃべりが上手だ。

いつもふざけているわけではない。時にはシリアスな話し方もみせる。同じ第2シリーズの最終回を飾った「さらば愛しきルパンよ」は傑作の呼び声が高い。今年の50周年記念再放送にも選ばれた。宮崎駿監督が別名義で演出したことでも有名だ。

ロボット兵「ラムダ」を操る少女・小山田真希に終幕近くでルパンはこう語りかける。「操縦できるか」「じゃ、後始末に行こうか」。真希は強い意志を込めて「はい」と答える。軍需企業にだまされたとはいえ、街を混乱に陥れた罪を、自首して償う決意を示すという、重たいシーンだが、ルパンの口調はとがめるトーンではなく、真希の気持ちに寄り添うかのようだ。

「操縦しなさい」「後始末しろ」ではなく、どちらも本人の気持ちを引き出す問いかけだ。責任を取り、決着をつけたいという、彼女の内心を汲み取って、決断を導く問いであり、巧みに自主的な決断へと、背中を押している格好だ。

ルパン一味の楽観主義はシリーズ全体の通奏低音ともなっている。たとえば、次元がピンチに陥ったとき、しばしば発する言葉は「面白くなってきやがった」だ。危機を歓迎しているわけではないだろうが、腕の見せどころが到来したことに武者震いに近い感覚を得ているようだ。

第2シリーズ第129話「次元に男心の優しさを見た」で、命のやりとりに臨んで、ホテルのフロント係に次元が言う「チップを弾むから、勇気を分けてくれねぇか」は、ダンディーなせりふ。窮地にあっても、ウイットを忘れない物言いは、シリーズ全体に大人っぽさを漂わせている。

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「カリオストロの城」の名せりふ