同局では農家や自治体から直接困り事や要望を聞き取り、国として改善すべき点などをまとめて省内に上げる業務に携わった。この現場の声を「ユーチューブでならば、もっと大勢の人に直接届けられるのでは」と思った。動画の撮影や投稿の経験はなかったが、プロジェクトへの参加で迷うことはなかった。

「花動画」がバズった

全国から若手を中心に結成された約20チームが集まり、20年1月にチャンネルは走り出した。もともと前例のないことを嫌う傾向が強い役所で「職員が顔出しでPRをするなどうまくいくはずがない」という雰囲気も、ないわけではなかった。しかし白石さんら各チームは互いに切磋琢磨(せっさたくま)しながら、とにかく動画を出し続けた。

風向きが変わったのはチャンネル開始から3カ月目のこと。白石さんのチームが制作した動画がブレイクした。コロナ禍で卒業式や結婚式といった花を贈るシーンが減って花き農家が困窮したことを受け、農水省が花の消費拡大を呼びかけた「花いっぱいプロジェクト」に合わせて制作した動画だった。

画面に現れたのはスーツ姿の2人の男性(うち1人は白石さん)。始終真剣な表情で、生活の中に花を取り入れようと訴える。カットが進むにつれ画面が花で埋め尽くされ、最後には頭に載せた花冠がずり落ちる。派手な演出も凝った装置もない、わずか1分ほどの動画だったが、これがバズりにバズった(10月初旬時点で96万回再生)。

動画配信後には花き農家から感謝の手紙が届き、コメント欄には「動画を見て花を買いました」「花を買おうと思います」といった書き込みが数多く寄せられた。「画面の向こうの視聴者に直接メッセージが届き、消費促進につながる手ごたえを感じた」

お互いを「戦友」と位置付ける白石さん㊨と松岡さん(動画の収録風景)

続いて話題となったのが、白石さんの同期で「省内きってのクリエーター」松岡慧さんが作成した動画「大臣にアフレコしてみた。」だった。東京など7都府県に初めて緊急事態宣言が出された際に農水相が国民に向けて発したメッセージを、自身の祖父にも分かるよう内容をかみ砕いて宮崎弁で語りかけた。動画の高評価率は99%。公務員は「真面目、堅い、面白くない」という世間一般のイメージを鮮やかに裏切り、バズマフは一気に注目されるチャンネルとなった。

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