Men's Fashion

ビームス中村達也氏に聞く トラッド50年史&キーワード

How to

2022.10.11

MEN'S EX

近年のファッションにおける最大のキーワード、"リバイバル"。これまで、その源流となった過去のムーブメントを断片的に紹介してきたが、ここで一度、50年にわたるトラッドファッションの歴史を総まとめしてみよう。解説役は我らが指南役・中村達也氏だ。




Tatsuya Nakamura Beams Creative Director

Profile

1963年生まれ。アイビーでファッションに目覚める。大学時代にビームスでアルバイトを始め、卒業後に入社。フレンチアイビー、ブリティッシュ、クラシコといったムーブメントをリアルタイムで経験。日本のドレスファッション史における最重要人物の1人。

Tatsuya Nakamura Beams Creative Director

Profile

1963年生まれ。アイビーでファッションに目覚める。大学時代にビームスでアルバイトを始め、卒業後に入社。フレンチアイビー、ブリティッシュ、クラシコといったムーブメントをリアルタイムで経験。日本のドレスファッション史における最重要人物の1人。

'70〜'80年代のトラッド、アイビーと切っても切れない関係

1970年代 アイビーの興亡とその分化

日本における戦後のトラッドファッションは、1960年代にみゆき族がその身を包んだアイビールックに源流を求めることができます。第2次大戦後、アメリカをはじめとする連合国軍の統治下において再出発した日本には、様々な米国文化が流入。日本人の服装にも、アメリカン・カルチャーが強い影響力を及ぼすようになっていきました。そうして迎えた‘60年代、VANが提案した「アイビー」というスタイルが若者たちの間で熱烈な支持を集め、先のみゆき族誕生につながります。‘60年代後半になると海外ではヒッピー文化が広がりを見せていき、日本にもそれが波及しますが、‘70年代以降もアメリカン・トラディショナルの人気は根強く残りました。そんな中で、アメトラから派生した多様なファッション・ムーブメントが花開いていくことになります。

70年代のトラッドスタイルを語るうえで、まず外せないのが「ブリティッシュ・アメリカン」の隆盛。これはいわば、アイビーへのアンチテーゼとして生まれたファッションでした。日本に先駆け、‘50年代後半からアメリカで流行を見せたアイビールック。しかしその大衆化とともに、当地ではそれが少々時代遅れとみなされるようになっていきます。小ぎれいだが大人の色気に乏しく、刺激が足りない服装だ、と。そこで注目されたのが、ポール・スチュアートや当時ニューフェースだったラルフ ローレンを筆頭とする、ニューヨークのブランドでした。彼らに共通する特徴は、アメリカン・トラディショナルに英国のテイストをミックスしていたこと。これが「ブリティッシュ・アメリカン」という名の由来です。たとえばジャケットのシルエットひとつとっても、ボックスシルエットのサックスーツではなくウエストに絞りの入った2つボタンを提案したりして、アイビーとは一線を画すルックを築いていました。ニューヨークではサルヴァトーレ・セザラニ、ジェフリー・バンクス、アレキサンダー・ジュリアン、アラン・フラッサーといったデザイナーが次々と台頭。その勢いは‘80年代まで続き、「ニューヨーク・トラッド」とも称されるようになっていきます。

一方、アイビーから派生したトラッドスタイルも‘70年代の日本では人気を博しました。アイビーリーガー予備軍である名門私立高校生の装いをフィーチャーしたプレッピー、アウトドアブームに関連して火がついた「ヘビーデューティ」とアイビーを組み合わせたヘビアイなどがその代表格です。

フレンチトラッドに定義はない。強いていうなら「自由さ」

1980年代 フレンチとブリティッシュの時代

次に、‘80年代のムーブメントを見ていきましょう。先に説明したブリティッシュ・アメリカンが引き続き人気を博す傍らで、注目すべき新潮流が誕生しました。目下リバイバル中の「フレンチアイビー」です。

フレンチアイビーの定義とは何か?とよくきかれるのですが、これは非常に難しい質問です。というのも、アメリカやイギリスのトラディショナルなアイテムを、フランス人の感性で自由に着こなしたスタイルがフレンチアイビーなのであって、その姿は千差万別。アイビーのようなわかりやすい定型は存在しませんし、フランスメーカーの服を着ればフレンチアイビーになるというものでもないのです。当時の定番アイテムを振り返ってみると、タータンチェックのパンツ、ラコステのポロ、U.S.アーミーのM65、英国製のカラフルなゴム引きコートなど、多国籍で捉えどころがありません。ただそれらの組み合わせ方が独特で、ポロシャツの首元にスカーフを巻いてみたり、スタジャンを着ているのに足元は革靴だったり、きれいな色のシャツやタートルニットにカーディガンを羽織ったり……といった、フランス特有の洒脱(しゃだつ)さを感じさせるのです。一方でジャケットにウエスタンブーツを合わせたり、軍の放出品を無造作に着たりといったラギッドな一面もありました。これらを各人のセンスでミックスするところに、フレンチアイビーの妙味があるのです。

知っておきたい用語集

‘70s~‘80s

【みゆき族】

1960年代、銀座・みゆき通り近辺にたむろしていた若者たちのこと。当時は“不良”の一味とみなされていた。

【VAN】

1948年創業のアパレル企業。‘50年代から米国文化を日本に紹介し、アイビーの火つけ役として国民的人気を博した。

【サックスーツ】

サックとは“袋”のこと。ウエストの絞りが緩いボックスシルエットを特徴とする。ブルックス ブラザーズが提案したNo.1サックスーツが元祖。

【サルヴァトーレ・セザラニ】

ラルフ ローレンでキャリアを積み、‘70年代に自らのブランドを設立。ラルフ在籍時には映画『華麗なるギャツビー』の衣装制作にも携わったといわれる。

【アラン・フラッサー】

ピエール・カルダンを経て独立し、英国色を強く打ち出したコレクションで話題に。映画『ウォール街』にも衣装を提供した。

【プレッピー】

有名大学進学のための私立学校「プレパラトリースクール」の学生たちが好んだ服装に由来。アイビーよりカジュアルで自由なスタイルが特徴。‘81年に書籍『オフィシャル プレッピー ハンドブック』邦訳版が発売。

【ヘビアイ】

1970年代に『MEN’ S CLUB』が提唱。ダウンジャケットやワークブーツなどラギッドなアイテムをアイビーに取り入れたスタイル。