
そこに行けば、長い尾を持つ“竜”に出合えるかもしれない。中央ヨーロッパの国スロベニアにあるポストイナ洞窟だ。川が流れるこの洞窟は、世界で最も生物多様性に富んだ洞窟とも言われ、コオロギやヤスデ、甲虫などに交じって、「竜の子」と伝えられてきた半透明の生物も暮らしている。
その竜の子は、正式名称をホライモリという。地下世界に適応したこの両生類は、体長30センチまで成長し、手足を再生する能力を持つ。最大100歳まで生き、何も食べずに10年以上生きることもある。科学者たちは、ホライモリの再生能力と適応力の過程について知るために、その膨大なDNAを調査している。

「ここまで竜に近い生物は、ほかにいないでしょう」と、ポストイナ研究所の生物学者カタリナ・カンドゥッチ氏は言う。
目を持たないホライモリについては今でもわかっていないことが多く、国際自然保護連合(IUCN)はこの生物を危急種に指定している。生息地は、イタリア北部からアルバニアまで、アドリア海をぐるりと取り囲むディナル・カルストの狭い地域だけだが、そこにいったいどれだけの数が生息しているのかすらよくわかっていない。
確実にわかっているのは、ホライモリの生息地が主に化学肥料などによる汚染にさらされていることだ。浸透性の高い岩を通って地下に入り込んだ汚染物質は、長寿のホライモリの体に吸収される。彼らについて学び、その保護活動を支援するには、ヨーロッパの洞窟で最も観光客が多いポストイナ鍾乳洞公園を訪れてみることだ。
ヨーロッパ屈指の観光地
鍾乳洞までは、スロベニアの首都リュブリャナから1時間とかからない。年間4000万人を超える観光客の多くは90分のツアーに参加し、純白に輝く石筍(せきじゅん)を見ながらシャンデリアに照らされた洞窟を通り、最後にホライモリの姿をちらりととらえ、その保護活動について学ぶ。

しかし、人混みを避けて、本来の生息地で竜の赤ちゃんを見たいという人は、ランプでともされた洞窟の奥深くまで、自然環境を傷つけないように探検する限定ツアーに参加することもできる。洞窟アドベンチャー、歴史の勉強、脱出ゲームの要素をすべて合わせたような3時間のツアーは、岩の懸垂下降、ボート、洞窟探検を体験しながら、ホライモリの生息地を目指す。
自国の洞窟遺産への誇りと空想上の動物に対する強い思いが、スロベニアの人々の保護活動を支えている。そのかいあって、ポストイナ鍾乳洞の研究所は、最近になって30匹のホライモリを新たに繁殖させることに成功したと発表した。記録的な成功だ。