日経ナショナル ジオグラフィック社

イングミコルティラクの初登攀

科学調査に協力した後、3人のクライマーたちには魅力的な報酬がついてくる。イングミコルティラクへの挑戦だ。

「ヘイゼルも私も、自分たちのこれまでの冒険の中で、最も危険な挑戦だと思っていました」と、オノルド氏は衛星電話でのインタビューで語ってくれた。「不安定な岩だらけの危険な崖を1200メートル近く登り続けるのは、永遠のように感じられました」

300万年前の片麻岩からなるイングミコルティラクの浮石や、つかんだ途端に砕けるもろい岩、大理石のようにツルツルしていてつかみにくい表面は、チームを大いに苦しめた(PHOTOGRAPH BY JAMES SMITH, NATIONAL GEOGRAPHIC FOR DISNEY+)

チームは、頂上に最も到達しやすそうに見える北東尾根を進むことに決めた。登攀の中間地点までは、5日がかりで固定ロープを頼りに登った。オノルド氏とフィンドレー氏は、ここから2日をかけて頂上を目指した。彼らは水とフリーズドライの食料を背負って登り、岩棚で一晩を過ごした。

イングミコルティラクは、クライマーたちが事前に予想していたよりもはるかに困難で危険な地形だった。300万年前の片麻岩からできているこの極北の岩壁は、風化と、凍結と融解が繰り返し起きたために、崩れやすい不安定な岩だらけだったのだ。

レンランドの氷冠を終日歩いた後、グリーンランド人ガイドの40歳の誕生日を祝う探査チーム。(PHOTOGRAPH BY J.J. KELLEY, NATIONAL GEOGRAPHIC FOR DISNEY+)
プール・ウォールに向かう途中、エドワード・ベイリー氷河のモレーン(氷河によって運ばれた堆石がつみ上げられてできる堤防状の地形)でテントを張る遠征チーム (PHOTOGRAPH BY J.J. KELLEY, NATIONAL GEOGRAPHIC FOR DISNEY+)

オノルド氏とフィンドレー氏は、崖から垂れ下がる巨大な岩を巧みに迂回していった。手でつかんだ岩が砕けてしまうこともしばしばあったし、大理石のようにツルツルしていて、つかむのにかなりの力を要する岩もあった。常に滑落の危険と隣り合わせだった。ロープがあるので滑落しても命を落とすことはないかもしれないが、大けがをするおそれがある。

オノルド氏は、「この北向きの岩壁から抜け出して、山頂で暖かい日差しを浴びたときには、2日間にわたる絶え間ないストレスから解放されてほっとしました」と言う。しかし、衛星電話のインタビューを切り上げる頃には、彼にとってイングミコルティラク登攀の苦労や危険はすでに過去のものになっているようだった。「そのうち、ヘイゼルも私も、この経験を懐かしく思い出すことでしょう」

(文 Andrew Bisharat、訳 三枝小夜子、日経ナショナル ジオグラフィック)

[ナショナル ジオグラフィック 日本版サイト 2022年8月24日付]