
ここは米国カリフォルニア州のモハーべ砂漠。急斜面に立つノースイースタン大学工学部の学生たちの足元を小石が滑り落ちてゆく。
彼らが製作したロボット「コブラ(COBRA)」は13台のミニロボットをヘビのように連結したものだ。プログラムを起動すると、ロボットは上に向かって反りかえり、頭部と尾部を連結して六角形になった。黒いカバーに包まれた外見は、まるで細いタイヤのようだ。そして突然、斜面を転がって下りはじめた。岩にぶつかって一瞬跳ね上がることもあったが、最後まで安定して転がり続けた。
「コブラ」は、米航空宇宙局(NASA)の月面探査ロボットコンペに参加した7体のうちの1つ。このコンペには全米各地の大学チームが参加、18カ月にわたって月などの凹凸の多い地形や過酷な環境を探索できる革新的なロボットを構想・設計・製作、その性能を競い合った。

月探査にロボットが必要な理由
NASAの今後の大きなミッションのひとつは、50年以上前のアポロ計画以来、初めて人類を月に送ること。ただし今回の目標は「到達」ではなく「滞在」だ。
月面基地を建設する場所は、アポロ計画で着陸した滑らかで平坦(へいたん)な月の赤道付近ではなく、氷が豊富に存在すると考えられる月の南極付近のクレーターになる予定だ。クレーターの内側には太陽の光がまったく届かない「永久影」領域があり、そこに氷が蓄えられている可能性が高い。氷は、月に長期滞在するうえでとても重要な資源だ。


とはいえ、クレーター内の探索は容易ではない。クレーターは切り立った壁に囲まれており、古い時代にできた穴や空洞があちこちにある。1日の気温差は250℃以上にもなり、日陰になることも多いため、太陽光発電を利用することもできない。
人間を寄せ付けないこうした地形を探索するためには、人間と一緒に探索を行うロボットや探査車が必要になる。NASAの火星探査機「パーシビアランス」のチーフエンジニアで、コンペの審査員の1人であるバンディ・バーマ氏は、「そこで、既成概念にとらわれない発想が求められるのです」と言う。